第五話 究極の自己デバフ! ただし平常心に限る
飢えと絶望のなかで、私は一つの閃きを得ていた。
外に向けて魔法を放つから大災害になる。だったら、自分自身に向けて魔法を使えばいいんじゃないか?
私の一億倍の魔力を使って、一億倍の筋力を押さえつける。
名付けて、超絶デバフ魔法・身体弱体化!
「すぅ……はぁ……」
私は目を閉じ、深く深呼吸をした。
イメージするのは、限りなく普通で、か弱く、平和だったあの頃の十一歳の私。
一億分の一まで自分の能力を制限し、重い枷をはめる感覚で魔力を自分自身にまとわせていく。
カチリ、と。
頭の中で、何かのスイッチが切り替わる音がした。
「……よし。いける、かも」
私はそっと目を開け、先ほどの竜巻の被害を免れて転がっていた奇跡の果実に、恐る恐る指先を伸ばした。
触れる。
「……壊れない!」
果実は霧にならない。それどころか、私の手にすっぽりと収まり、普通のリンゴと同じような重みを感じさせてくれた。
魔法による自己デバフは大成功だ。これでついにご飯が食べられる。
《警告。自己弱体化魔法の維持には、精神の完全な安定(平常心)が必要です。感情の起伏により魔力制御が乱れた場合、即座に制限が解除されます》
また脳内にアナウンスが響いたけれど、そんなこと今はどうでもいい。
私は夢中で果実にかぶりついた。
シャクッ。
口の中に、甘酸っぱくて瑞々しい果汁が爆発的に広がる。
「おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
三途の川から生還して(一回死んでるけど)、極限の飢餓状態からようやく口にした食べ物。
そのあまりの美味しさに、私は思わず歓喜の叫びを上げてその場で飛び上がった。
――その瞬間。
歓喜という感情の爆発により、私の『平常心』は木端微塵に吹き飛んだ。
パキィィィィンッ!
私を覆っていたデバフ魔法の枷が、一瞬にして砕け散る音がした。
「あっ」
飛び上がった私の足元から、ドンッ!と大気が弾け飛ぶ。
ただ喜んでピョンと跳ねただけ。しかし、制限が解除された一億倍の脚力から放たれた跳躍は、まさにロケットの打ち上げだった。
「うぎゃあああああああああああああああっ!?」
手にした果実もろとも、私は再び雲を突き抜けて成層圏めがけてカッ飛んでいく。
遥か下界では、私のジャンプの衝撃波で、さっきまで飲んでいた川の水が完全に干上がり、大地が真っ二つに割れているのが見えた。
「平常心! 平常心だからぁぁぁぁぁ!」
空の彼方で泣き叫びながら、私は悟った。
この世界で生きていくためには、食事をするにも喜ぶにも、常に悟りを開いた高僧のように心を無にしなければならないのだと。
イレギュラーだらけの異世界サバイバル。
私の明日は、どっちだ。




