第四話 物理がダメなら魔法があるじゃない! ……という盛大なフラグ
葉っぱとの死闘(一方的な粉砕)を数十分ほど続けた結果、私はある一つの絶望的な事実に気がついた。
無理だ、これ。
どうしても指先に『150万トンの数分の一』くらいの力が入ってしまう。
脳からの「触れろ」という電気信号が指先に届いた瞬間、すでに破壊のエネルギーが生み出されている感覚だ。
「喉も渇いてきたし……あ、川だ」
歩き回っていたら、幸いなことに綺麗な川を見つけた。
水なら砕けることもないし、飲めるはず!
私は川岸にしゃがみ込み、両手を合わせてお椀の形を作り、水をすくい上げようとした。
ビチャッ、シュゴォォォォォォンッ!!
「……へ?」
両手で水を包み込もうと力を入れた瞬間。
私の手の中で極限まで圧縮された水分子が、超高圧の水流カッターとなって空に向けて撃ち出された。
空を飛んでいた運の悪い鳥の群れが、一瞬で真っ二つになって墜落していくのが見えた。
「……手で水もすくえないの?」
水すらも、私の握力にかかれば凶器に変わるらしい。
結局、私は四つん這いになり、犬や猫のように直接川に顔を突っ込んで水を飲む羽目になった。
冷たくて美味しい水のはずなのに、なんだか涙の味がした。
「水分は取れたけど……お腹はどうしようもない」
ぺたりと川原に座り込み、天を仰ぐ。
その時、私の脳裏にある記憶がフラッシュバックした。
『えっと、初期スキルは……【身体強化】と【魔力操作】!』
「……そうだ! 女神様、確かに『魔力操作』って言ってた!」
物理的な接触がダメなら、魔法を使えばいいじゃない!
直接触るから壊れるんだ。ファンタジーの定番みたいに、風の魔法でフワッと果実を包み込んで、優しく手元に運んでくればいいんだ。
私は立ち上がり、少し離れたところにある無傷の果樹に狙いを定めた。
「ええと、風よ。優しく、そよ風のように……果実を包み込んで、私の元へ……」
目を閉じ、意識を集中させる。
自分の中にある、目に見えないエネルギーを指先に集めるイメージ。
すると、指先からふわりと心地よい風が生み出される感覚があった。
「いける! これでやっとご飯が——」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!
目を開けた私の視界を埋め尽くしたのは、天まで届くほどの巨大な竜巻だった。
「……えぇぇぇぇぇぇっ!?」
『そよ風』のつもりで放った魔力は、一瞬にしてカテゴリーMAXの超巨大ハリケーンへと変貌し、周囲の地形ごと果樹を天高く巻き上げていた。
川の水は竜巻に吸い上げられて逆流し、遠くの森から木々が根こそぎ引っこ抜かれて宙を舞っている。
《エラーレベルの『魔力操作』を確認しました。現在、対象者の魔力量および魔法威力は通常の人類の約一億倍に設定されています》
またあの無機質なアナウンスが響く。
「魔力も一億倍かぁぁぁい!!!」
私の絶叫は、轟音を立てる竜巻にかき消された。
物理もダメ。魔法もダメ。
巻き上げられ、はるか上空でチリとなって消えていく果実たちを見上げながら、私は空腹のあまりその場にパタリと倒れ伏した。
……異世界サバイバル、難易度が高すぎる。




