第三話 サバイバルの基本は食事から? 命がけの力加減
「……お腹すいたなぁ」
凄まじい威力の石ころレーザーで森を消し飛ばしてから数時間。
私は途方に暮れながら、焼け野原になった森の跡地を歩いていた。
落ち着いて考えてみれば、おかしな話だ。
岩盤すら触れただけで崩壊させる私の握力で、なんであの時、普通の石ころを『掴む』ことができたんだろう。
もしかして、無意識のうちに石をギチギチに圧縮して、とんでもなく硬い別の物質に変えちゃってたとか?
だとしたら、私が触れるものは全部、そんな風に破壊されるか変質してしまうってことだ。
きゅるるる、と可愛い音を立ててお腹が鳴る。
耐久力が一億倍になっても、お腹は減るらしい。
見回すと、少し離れた場所に、破壊を免れた数本の木が立っていた。枝には、リンゴのような真っ赤な果実が実っている。
「よかった、食べ物だ!」
私は駆け寄り、手を伸ばした。
いや、待て。
今の私が普通に木から実をもぎ取ろうとしたら、間違いなく木ごと粉砕してしまう。
私は深呼吸をして、脳内でシミュレーションを行った。
極限まで力を抜く。
羽毛に触れるよりも優しく。
水面に波紋を立てないように、そっと、そおっと……。
私は息を止め、震える指先で真っ赤な果実の表面に触れた。
ポンッ。
乾いた音がして、果実は赤い霧となって空中に散った。
「…………えっ」
触れた瞬間に、果実は跡形もなく消滅していた。
いや、消滅したんじゃない。私の指のわずかな圧迫に耐えきれず、細胞レベルで粉砕されてジュースの霧になったんだ。
「嘘でしょ……食べられないじゃん!」
私はパニックになり、隣の果実にも手を伸ばした。
ポンッ。
ポンッ。
シュンッ(枝が消し飛ぶ音)。
バキボキボキィッ!(木がへし折れる音)。
「あああああっ! 私のリンゴがぁぁぁ!」
焦れば焦るほど力加減はおかしくなり、気がつけば目の前にあった果樹は、木端微塵になって大地に散らばっていた。
残されたのは、真っ赤な果汁で少しだけ湿った地面だけ。
「どうしよう……このままじゃ、餓死しちゃう……」
あらゆる攻撃を無効化する一億倍の耐久力を持ちながら、リンゴ一つまともに食べられずに餓死。
そんな前代未聞の死に方、絶対に嫌だ。
「……練習するしかない。何に触れても壊さない、究極の脱力コントロールを」
私は決意した。
この異世界で生き残るための最初の試練は、魔王討伐でもモンスター退治でもない。
『ご飯を普通に食べるための、命がけの力加減トレーニング』だ。
私は地面に落ちている木の葉をターゲットに定め、そっと指を伸ばした。
パラッ……(葉っぱが塵になる音)。
異世界サバイバル生活、前途多難すぎる。




