第四十二話 魔界のギャル魔王と、初めての「同世代」?
一千万倍の「準備運動」によって、魔界の空に浮かぶ暗雲は消し飛び、大地には巨大な亀裂が走った。
私が軽く首を回すたびに、周囲の空間がガラスが割れるような音を立てて軋んでいる。
「……ふむ。やはりここはいい。いくら動いても、世界が消滅する気配がない」
私は能面のまま、少しだけ満足感に浸っていた。
逃げ回る古の魔人を追い詰めようとした、その時だ。
「ちょ、待って待って! マジありえないんだけど! ウチの城のタワー、アンタのストレッチの風圧だけで折れたんだけど!?」
瓦礫の山となった魔王城の方向から、派手な足音と共に一人の少女が駆け寄ってきた。
露出度の高い黒いドレスに、派手な金の装飾。ピンク色に輝く長い髪をなびかせ、彼女は信じられないものを見るような目で私を指差した。
「アンタが噂の『歩く天変地異』? マジウケる。見た目フツーのガキじゃん!」
私は足を止め、その少女をじっと観察した。
一千万倍の視覚強化が、彼女のステータスを弾き出す。
(……!!)
私の能面の奥で、激しい衝撃が走った。
(なんだ、この子は……。魔力の密度、細胞の頑丈さ、そして魂の輝き……。今の私、つまり『一千万倍設定』の私と、完全に互角じゃないか!)
これまでの「事務職」や「アスリート(アルフレッド)」、「化け物(老師)」とは次元が違う。
彼女こそが、私がずっと探し求めていた、私と全く同じ重力で生き、同じ速度で思考できる、真の意味での「標準的な隣人」だ。
「……私の名はユイだ。新人のAランクだ。……貴様が、この地の主か?」
「そ! ウチが魔王のリリス。前のオッサンが引退したから代わりになったんだけど、マジ侵略とかダルいし、今は魔界の映えスポット巡りに忙しいわけ。なのにアンタが来てから地形変わりまくってマジぴえんなんだけど!」
リリスと名乗った魔王は、腰に手を当ててぷんぷんと怒っている。
だがその挙動の一つ一つから放たれるプレッシャーは、真魔界の強固な空間を容易く歪めていた。彼女がただ地団駄を踏むだけで、周辺の重力値が狂い、浮遊島がいくつか墜落していく。
(……素晴らしい。なんて健康的で、なんてパワフルなギャルなんだ。彼女なら、私の『握手』を受けても骨が折れないどころか、そのままハイタッチまでこなしてくれるに違いない!)
「……リリス。ようやく会えた。君こそが、私の求めていた『究極の親友候補』だ」
「は? なに急に。つーかアンタ、その無表情のままヤバいオーラ出しすぎ。マジで引くんだけど」
リリスは引き気味に笑っているが、その瞳の奥には隠しきれない闘志、あるいは「同格」を見つけた高揚感が宿っていた。
「……挨拶だ。リリス、私の『本気の親愛』を受け取ってくれ。……出力を、二千万倍に上げるぞ」
「ちょ! 二千万とかマジ盛りすぎ! でもいいよ、ウチも暇だったし、アンタがどこまでイケるか試してあげる!」
リリスが指先でパチンと音を鳴らすと、魔界全土の魔力が彼女の周囲に収束し、巨大な暗黒のオーラが立ち昇った。
地形を変える程度の戦いではない。
これは、二つの「神に等しい普通」が激突する、魔界崩壊の一秒前。
私は初めて、能面のまま小さく口角を上げた。
ようやく、手加減を忘れて「遊べる」友達を見つけたのだ。




