表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
規格外の幼女サバイバル  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/46

第三十八話 五十万倍の「いたわり」と、消失する地平線

「……はっはっは! どうした小娘、その程度か! 拳が軽いぞ!」


老師が木刀を一閃させるたび、大気が断裂し、真空の刃が私の頬を掠めていく。

……いや、実際には掠めてすらいない。彼の放つ「理」の力が、私の周囲にある因果律そのものをねじ曲げているような感覚だ。


(……素晴らしい。十万倍の出力デバフを、あんなに涼しい顔で受け流すなんて。アルフレッドなら今頃、分子レベルで霧散してこの世のことわりからログアウトしていたはずだ)


私は能面のまま、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

ようやく見つけた。私の「本気(の手加減)」を真っ向から受け止め、さらに「もっと来い」と煽ってくれる究極の測定器を!


「……わかった。老師、あなたは本当に『健康なご老人』だ。ならば、私も敬意を表して、さらに出力を引き上げさせてもらう」


私は脳内のダイヤルを一気に回した。

十万倍から三十万倍。そして、老師の笑顔(という名の戦慄)に応えるべく、ついに**「五十万倍」**へ。


――ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!


私がその設定を確定させた瞬間、庵があった山どころか、聖王国の北半分を支える大地そのものが、悲鳴を上げて数メートル沈下した。

空はもはや青色ではなく、異常なエネルギーの衝突によって紫色に変色し、雷鳴ではない「空間の軋む音」が鳴り響いている。


「……ひっ、ひぃぃぃ! もうダメだ、世界が割れるぅぅぅ!」

「レオン! 泣いてる場合じゃないわ、結界を……って、私の結界が発動した瞬間に蒸発してるぅぅぅ!」


カイルたちが絶叫しながら、地平線の彼方まで吹き飛ばされないように必死で岩(の残骸)にしがみついている。


「……行くぞ、老師。これは、私からの最大級の『肩叩き』だ」


私は踏み込んだ。

もはや「動く」という概念ではない。私が一歩進んだ場所の空間が圧縮され、老師との距離が物理的にゼロになる。


ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!


私の拳が、老師が防御に回した木刀に直撃した。

五十万倍。

それは、かつて私がモニタリングしていた「黒の剣(もやしっ子)」たちが一生かけて放つ全エネルギーを、一瞬に凝縮したよりも巨大な力。


「…………ぬ、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


老師の足元の岩盤が、衝撃に耐えきれずプラズマ化して消滅した。

老師の背後にあった巨大な山脈が、私の拳の風圧だけで扇形に削り取られ、新たな「盆地」が地図上に書き込まれる。


(……止めた!? 五十万倍の拳を、あの細い木刀一本で……!)


私は驚愕した。

老師は全身の毛穴から血を噴き出し、衣服はボロボロになっているが、その瞳だけは衰えるどころか、かつてない黄金の輝きを放っている。


「……カカッ! 愉快、愉快! まさか、この歳になって『死』をこれほど近くに感じられるとは! 娘よ、貴様の『挨拶』、確かに受け取ったぞ!」


老師は笑いながら、五十万倍の衝撃をその身に宿したまま、一歩前に踏み出してきた。

私の拳を「支え」にして、彼は自分の限界をさらに超えようとしているのだ。


(……強い。なんて健康なんだ。この人なら、百一万倍……いや、百万倍まで上げても、きっと笑って『いい運動だ』と言ってくれるに違いない!)


「……老師、あなたは最高だ。これまでの誰よりも、私の『普通』に近い場所にいる」


「……はぁ、はぁ……。……普通、だと……? 貴様、今の……この、神をも殺しかねん一撃を……まだ『普通』と抜かすか……っ!」


老師は震える足で立ち続け、満足げに目を細めた。

こうして、私と老師の「親睦会」は、聖王国の地形を再定義しながら、さらなるインフレの深淵へと突き進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ