表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
規格外の幼女サバイバル  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/46

第二十九話 十倍の誤差と、神の代理人の冷や汗

セラフィナの絶対防御『聖域』が、パリンという軽い音と共に霧散した。

ギルド内の空気はもはや氷点下まで冷え切っている。レオンやエリスは、これ以上ないほど目を見開き、呼吸することすら忘れていた。


(……あ、れ? やっぱり壊れた。おかしいな)


私は指先を見つめ、脳内で急速に計算を走らせた。

レオンたちの強さを「1」として、セラフィナさんたちはその10倍、つまり「10」くらいの出力だと見積もった。

私の元の力が100,000,000(一億)だから、その百分の一……いや、もっともっと抑えて、彼女たちの強さ(10)に対してさらにその数分の一の力で触れたはずだった。


(……あ、そうか。1と10の差なんて、一億から見れば0.0000001と0.000001の差でしかないんだ。どっちにしろ、蚊を叩く力よりさらに弱くしないと、この世界の人たちはみんな壊れちゃうんだな)


ようやく算数レベルの事実に気づき、私は内心で深い溜息をついた。

この世界の「最強」の階段をいくら登ったところで、私の持つ一億倍という数字の前では、一段目も百段目も地面にへばりついているのと変わらないのだ。


「……き、貴様。今、何をした……」


セラフィナが、震える声で問いかけてきた。

常に自信に満ち溢れていた彼女の瞳に、初めて「理解不能な存在への恐怖」が浮かんでいる。


「……何、と言われても。ただの挨拶だ。少し鎧が立派だったから、触れてみたくなっただけで」


私は能面のまま、ジョッキに残っていた黒い炭酸飲料を飲み干した。

「……壊すつもりはなかったんだ。この世界の『大人』はもっと頑丈だと思っていたから、つい力が入ってしまったのかもしれない。すまないな」


「お、大人……?」

セラフィナが呆然と呟く。

国内2位、神の代理人とまで呼ばれる自分たちが、この少女にとっては「まだ身体ができていない子供」か何かに見えているというのか。


「……ユ、ユイちゃん! もうその辺にしてあげて!」

見かねたカイルが、腰を抜かしながらも割って入ってきた。

「セラフィナ様、申し訳ありません! この子は……その、ちょっと常識に疎いというか、力の加減がまだ分かっていない新人Aランクでして!」


「Aランク……だと……?」

セラフィナの背後に控えていた魔術師の青年が、顔を引きつらせた。

「聖域を物理的に粉砕しておいて、Aランクだと……? 冗談はやめろ。そんなことが可能なのは、世界にただ一人……『黄昏の旅団』のリーダー、あの御方だけのはずだぞ!」


(おっ、ここで1位の名前が出てきた。やっぱり1位なら、私のこの『ちょっとした挨拶』を耐えられるのかもしれないな)


私は少しだけ希望を見出した。

この世界の頂点なら、もしかしたら私と「普通に」握手ができる人がいるかもしれない。


「……そうか。1位なら耐えられるのか。なら、いつか会ってみたいものだ」


私がポツリと独り言を漏らすと、セラフィナがガタガタと肩を震わせた。

彼女には、私の言葉が「次は1位を狩りに行く」という宣戦布告に聞こえたらしい。


「……よ、よしなさい。あの御方は、今は公の場には姿を現さない。……だが、わかったわ。貴様がただの『新人』でないことだけは、骨身に染みて理解した」


セラフィナは割れた魔力障壁を修復することも忘れ、逃げるように受付へと向かっていった。

『天帝の翼』の威厳は、私の指先一つで、文字通り粉々に粉砕されてしまったのだ。


「……ふぅ。カイル、お腹が空いた。何か、もっとカロリーのあるものが食べたい」


私はいつもの能面に戻り、遠ざかる『標準(予定)』だった人たちの背中を眺めながら、次の食事のことに思考を切り替えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ