第二十六話 Sランクの「基本」と、バグる少女の模範解答
「いいか、まずは基本だ。剣を振るのではない。『空間を断つ』イメージだ」
レオンが訓練場の巨大な岩に向かって、漆黒の大剣を無造作に振り下ろした。
ズシャァァァァンッ!!
衝撃波だけで、高さ五メートルはある岩が豆腐のように真っ二つに割れる。
カイルたちが「ひぇっ……」「あれが基本……?」と絶望的な顔をしている。
(なるほど。Sランク(一般人)の基本は、岩を真っ二つにすることか。三年前の私のモニタリング結果は正しかったんだ。安心した)
私は一人で深く納得し、ジョッキを置いた。
「次は魔法だ。エリス、見本を見せてやれ」
「……仕方ないわね」
エリスが杖を構え、廃坑のオーガキングを仕留めた時よりも遥かに高度な火炎魔法を放った。
「クリムゾン・フレア!」
紅蓮の炎が渦を巻き、訓練場の防壁(特注の対魔石製)を真っ赤に溶かしていく。
(ふむふむ。魔法の基本は、最強の防壁を溶かすこと。メモメモ)
レオンがニヤリと笑い、私を指差した。
「さて、ユイと言ったか。あんたもやってみろ。……『基本』でいいぞ」
「……わかった。やってみる」
私はカイルたち、そしてレオンとエリスの視線を一身に浴びながら、手頃な小枝を拾い上げた。
(よし、今見た『基本』を忠実に再現しよう。目立たず、かつ教えられた通りに……)
私はデバフ出力を「黒の剣リーダーの全力の半分」くらいに設定した。
そして、レオンがやったように、小枝をシュッと斜めに振り下ろした。
――パシュン。
音は小さかった。
だが次の瞬間、訓練場の地面が、レオンが割った岩の延長線上から、遥か彼方の外壁まで一直線に**「消失」**した。
地割れではない。地面そのものが削り取られ、深さ数メートルの見事な運河が出来上がっている。
「…………」
さらに私は、エリスの魔法を真似ようと思い、指先にほんの少しだけ熱を込めた。
「えい」
ドォォォォォォォォォンッ!!
指先から放たれた小さな火花が、空気に触れた瞬間に核分裂反応のような大爆発を起こした。
溶けるどころか、訓練場の防壁が蒸発し、空には巨大なキノコ雲が上がった。
「………………」
沈黙。
レオンは構えていた大剣を落とし、エリスは白目を剥いて泡を吹いている。
カイルたちは「ああ、今日も世界が平和(壊滅)だ……」と遠い目をしていた。
「……こんな感じでいいか? 空間を断ち、防壁を溶かしてみたが」
私は能面のまま、少し首を傾げた。
「黒の剣」のリーダー、レオンがガクガクと膝を震わせながら、震える指で私を指差した。
「……お前……。俺の言った『基本』と、今のお前の『基本』……辞書が違うのか……?」
(えっ。……あ、もしかして、全力の半分でも出しすぎた? Sランクの半分って、やっぱりAランクくらいのはずだよね……?)
私の「基準」と世界の「現実」が、またしても数光年ほどズレていることが判明した瞬間だった。
ちなみにセシルは爆風で飛ばされそうになり、必死で柱にしがみついていたが、やはり誰も気づかなかった。




