第二十五話 最強の幼馴染と、透明化する妹
「……またあんたか、レオン」
城塞都市の訓練場。カイルたちの指導を(恐怖で)引き受けていたエリスが、苦虫を噛み潰したような顔で天を仰いだ。
そこにいたのは、漆黒の大剣を背負った男――国内三位のSランクパーティー『黒の剣』のリーダー、レオンだった。
「ひさしぶりだな、エリス。相変わらずその縦ロールは気合が入ってるな」
「うるさいわね。あんたたち、めったに街には現れないんじゃなかったの?」
この二人、実は家柄が近い貴族同士の幼馴染。エリスがSランクに上がらない理由を知っている数少ない理解者でもある。
「ああ、だが気になる『新人』を見かけてな。……おい、そこにいるお嬢ちゃん」
レオンの鋭い視線が、訓練場の隅で黒い炭酸飲料を飲んでいた私を射抜いた。
カイルたちは「ひっ」と息を呑んで硬直している。
「……何か用か。今は休憩中だ」
私は能面のまま答えた。内心では(あ、近所のお兄さんだ。今日も黒ずくめだな)くらいにしか思っていない。
「お前たちが指導しているパーティー……『青の鼓動』だったか。見込みがありそうだな。俺たち『黒の剣』も少し手貸してやろう。……指導という名目でな」
「えええええっ!? 黒の剣が、俺たちを直接指導!?」
カイルたちが絶叫する。Bランクから上がったばかりの彼らにとって、それは神話の神々から直接稽古をつけてもらうようなものだ。
「ちょっとレオン! 余計なことを……!」
エリスが慌ててレオンの袖を引く。彼女は知っているのだ。レオンの目的が指導ではなく、ユイの正体を探ることにあるのを。
「お姉様、あの……私もここに……」
セシルが控えめに手を挙げたが、レオンの放つ凄まじいSランクのプレッシャーにかき消され、誰にも気づかれない。
「いいからセシル、あんたは下がってなさい!」
「……は、はい。お姉様(……私、一応弟子なのに)」
完全に空気と化したセシルを余所に、レオンは不敵に笑いながら私に歩み寄ってきた。
「お嬢ちゃん、あんたも『指導』してやる。……まずはその、妙に落ち着いた面の裏側を見せてもらおうか」
(……面倒なことになったな。でも、この人の動きを間近で見れば、もっと正確に『一般人』の基準を修正できるかも)
私は能面の裏で、新たな「基準データ」の収集を開始することに決めた。




