第二十ニ話 指導はプロにお任せ? 恐怖の教育実習スタート
エリスが泡を吹いて逃げ出してから数日。私は一人で、彼女が滞在しているという最高級宿舎の門を叩いていた。
「……エリスに会いたい」
門番は最初、子供のいたずらだと思って追い返そうとしたが、私が無表情で門の石柱を「指先で優しく」撫でただけでヒビが入ったのを見て、顔を真っ青にして奥へ走っていった。
通された豪華な応接室では、エリスがガタガタと震えながら、ティーカップをカチャカチャいわせて座っていた。
「ひっ、ひぃ……! 私に何か、何か不手際がありましたでしょうか!? 命だけは、命だけは助けてくださいませぇっ!」
「……落ち着け。殺しに来たわけじゃない」
私は能面のまま、懐からあの黒い炭酸飲料を取り出して一口飲んだ。
「……相談だ。カイルたちをもっと強くしたいんだが、私は教えるのが得意じゃない。だから、実力のあるあなたに指導をお願いしたいんだ」
「し、指導……? 私が、あの方々を……?」
「ああ。剣と魔法はあなたが。斧は、そこの強そうな騎士が教えてやってくれ」
私が背後に立つ護衛騎士を指差すと、騎士もまた冷や汗を流して直立不動になった。
エリスは私の言葉を頭の中で「断れば消す」という風に変換したらしい。涙目で激しく首を縦に振った。
「もちろんですわ! 喜んで! 全力で、死ぬ気で(彼らが)お教えいたしますわっ!」
こうして、エリスと彼女の護衛騎士による、地獄の特別講習が始まった。
カイルたちは「あのエリス嬢が指導してくれるなんて!」と感激していたが、実際にはエリスが私の視線に怯えて、過剰なまでの熱血指導を行っていただけである。
数日間の特訓の後。エリスが少し落ち着きを取り戻し、私に一人の少女を紹介してきた。
「ユイ様……。カイル様たちのパーティーですが、前衛と魔法使いは優秀ですが、回復役がいらっしゃらないようですわ。よろしければ、私の弟子であり、私の妹でもあるこの子を加えていただけませんか?」
エリスの後ろから、ひょこっと顔を出したのは、彼女に似た金髪の可愛らしい少女だった。
「……セシルと申します。お姉様から、神のような御方がいらっしゃると聞いて……あ、あの、よろしくお願いします!」
セシルは姉から「粗相をすれば世界が滅ぶ」とでも吹き込まれているのか、ガチガチに緊張して最敬礼をしている。
どうやら彼女は回復魔法の天才で、姉であるエリスからも太鼓判を押されているらしい。
(回復役、確かに欲しかったんだよね。私がうっかり加減を間違えてカイルたちを半殺しにした時でも、この子がいたら安心だし)
「……わかった。カイルたちに紹介しよう。四人でAランクとして頑張ってくれ」
私が無表情で頷くと、セシルは「助かった……!」という顔でへなへなと座り込んだ。
こうして、青の鼓動はセシルを加え、より隙のないパーティーへと進化することになった。
私は訓練場の隅っこで、セシルの回復魔法の練習台(といっても私が怪我をすることはないので、ただ光を浴びているだけだが)になりながら、のんびりと次の冒険に思いを馳せていた。




