第十九話 傍観の美学と、勝手に高まるカリスマ
門を抜けた先は、いかにも盗賊のアジトといった感じの荒れた中庭だった。
奥の建物からは、酒盛りでもしているのか下品な笑い声が聞こえてくる。
「……道は開けた。あとは任せる」
私は中庭の隅にある手頃な木箱の上に腰を下ろし、ホッと息をついた。
これ以上私が前に出ると、うっかり砦ごと盗賊の宝物庫まで原子分解しかねない。それに、彼らはもうすぐAランクに上がる実力者だ。ただの盗賊団相手なら、私が出る幕もないだろう。
しかし、私のその「ただサボりたいだけ」の態度は、彼らの目に全く別の形で映っていた。
「……そうか。あんな恐ろしい大魔術だ、魔力や魂への反動がないはずがない。ユイちゃんはここで休んでいてくれ」
カイルが痛ましそうな顔で私を見る。
「ごめんなさいユイちゃん、私たちが見張りに手間取ったばかりに、無理をさせてしまって……! あとは私たちが、誇りにかけて必ず制圧してみせるわ!」
ミラが杖を握りしめ、目に涙を浮かべている。
「ああ! ユイちゃんのその悲しい業は、俺たちがこれ以上背負わせない! 行くぞ、お前ら!」
ボルスが大斧を構え、雄叫びを上げた。
(えっ、いや、全然疲れてないし反動もないけど。ていうか、勝手に燃え上がってる……)
三人は凄まじい気迫と共に、盗賊たちがたむろする砦の奥へと突撃していった。
「な、なんだお前ら!? ぎゃああああっ!」
「冒険者だ! 武器を取れ! ……って、強すぎだろコイツらぁぁぁ!」
怒号と悲鳴が飛び交い、剣戟の音と魔法の爆発光が砦の窓から漏れ出ている。
私は木箱に座って足をブラブラさせながら、その様子をぼんやりと眺めていた。
遠隔モニタリングで培った知識と照らし合わせても、彼らの動きは確かに素晴らしい。連携は完璧だし、個々の戦闘スキルも高い。盗賊の頭目らしき巨漢が出てきても、カイルが一撃で武器を弾き飛ばし、ボルスが峰打ちで沈めてしまった。
(うんうん、優秀優秀。これなら私はただついて歩くだけで、適当にお金も稼げるし美味しいご飯も食べられるな)
私はすっかり「引率の先生」気分で、のんびりと空を仰いだ。
十分後。砦の制圧を完璧に終えた三人が、息を切らしながら私の元へ戻ってきた。首領を含め、盗賊たちは全員縄で縛り上げられている。
「……終わったよ、ユイちゃん」
カイルが、額の汗を拭いながら爽やかな笑顔を向けた。
「……ご苦労だった。見事な連携だった」
私が能面のまま短く労うと、三人はパァッと顔を輝かせた。
「ユイちゃんに褒められるなんて……! 私たち、もっと強くなって、絶対に君を守れるようになるからね!」
「ああ、俺たちの力で、ユイちゃんを過去のしがらみから解放してみせる!」
何もしていないのに、なぜか私のカリスマ性と彼らの忠誠心がストップ高を記録している。
何もしない方が崇拝される。そんな謎のポジションを確立しつつあることに気づき、私は内心で首を傾げながら、帰って食べる夕飯のメニューに思いを馳せていた。




