第十六話 帰還後の祝杯と、黒くて甘いシュワシュワ
オーガキングの討伐は、これ以上ないほどスムーズに(少なくとも私にとっては)終わった。
カイルたちは完全に魂が抜けた顔で、台車に乗せたオーガキングの巨体を引いてギルドへと帰還した。
ギルドマスターは、傷一つなく気絶しているだけのオーガキングを見て、さらに額のシワを深くした。
「……上位Sランクの火力で、これほど手加減できる奴など聞いたことがない。お前、本当に何者だ」と呟いていたが、私は相変わらず無言を貫いた。暗部最強のエリート少女という誤解は、もはやマリアナ海溝よりも深く定着してしまったようだ。
そんなことよりも、今の私には重大なミッションがあった。
そう、ご飯だ。
ギルドに併設された酒場のテーブルで、私は山盛りの串焼き肉を前に息を吐いた。
向かいの席には、まだ若干顔色が悪く、私を神か悪魔を見るような目で見つめる青の鼓動の三人が座っている。
「ユ、ユイちゃん……好きなだけ食べていいからね」
カイルが引きつった笑顔で言う。
「ああ。いただく」
肉にかぶりつく。美味い。
そして、この脂っこい肉を流し込むための『最高の一杯』が、ここにはあるのだ。
「お嬢ちゃん、注文の『コウカの木の実の炭酸割り』だ。砂糖もたっぷり入れといたぜ」
酒場の親父が、ジョッキになみなみと注がれた黒くて泡立つ液体をドンッと置いた。
これだ。この数日の街の生活で見つけた最大のオアシス。
見た目も味も、前世で愛飲していたあの黒い炭酸飲料にそっくりなのだ。
「親父さん、それ、最近錬金術師が作ったっていう『カロリーゼロ』の薄いやつじゃないだろうな」
私が念を押すように確認すると、親父はガハハと笑った。
「馬鹿言ってんじゃねえ、あんな人工的な甘味料の偽物なんて出さねえよ! ガツンと甘い本物のレギュラー版だ!」
「……素晴らしい」
私はジョッキを手に取り、無表情のまま一気に喉へ流し込んだ。
強烈な炭酸と暴力的なまでの砂糖の甘さが、疲れた(精神的に)体に染み渡っていく。カロリーゼロの妥協品など認めない。このガツンとくる本物の味こそが至高だ。
(くぅーっ! 最高! 異世界サイコー!)
内心で歓喜のステップを踏みながらジョンッと空のジョッキをテーブルに置くと、カイルたちがビクッと肩を震わせた。
「す、すごい飲みっぷりだね……。やっぱり、過酷な任務の後は糖分を欲するんだな……」
ボルスの呟きに、ミラが悲しそうに頷く。
「ええ。きっと組織では、水と乾パンしか与えられてなかったのよ。可哀想なユイちゃん……」
いや、森で普通に果物とか魔物の肉を焼いて食べてたけど。
勘違いはさらに加速しているようだが、この黒い炭酸飲料さえ飲めるなら、もうどう思われてもいい気がしてきた。
私は静かに、二杯目のジョッキを要求すべく親父に視線を送った。




