第十四話 上位Sランクの背中と、不本意な引率任務
ギルドマスターは、ぽっかりと空いた壁の穴から視線を戻し、顎を撫でた。
「……木人を粉砕し、壁をブチ抜くか。俺の知る限り、冒険者でこれができるのは上位Sランクの数名……いや、魔法での身体強化を極めた一握りの化け物どもくらいだ。それを、こんなちっぽけなガキが無表情でやってのけるとはな」
(よしよし! ちゃんと『この世界の強い人』の枠に収まってるみたいだ!)
ギルドマスターの呟きを聞き逃さず、私は内心でガッツポーズを決めた。
一億倍の力を持つ私からすれば、先ほどのデコピンは「細胞の一つ一つにまでブレーキをかけた極限の撫でり」だったわけだが、どうやらこの世界の上位Sランクたちもその程度の火力は出せるらしい。なら、私が少しばかり無双したところで「あいつは神話の化け物だ!」と騒がれることはない。適度に目立ちつつ、適度に強い冒険者として生きていける。完璧な計算だった。
「で、だ。特例でAランクにしてやったんだ。当然、それ相応の仕事はしてもらうぞ」
「……構わない。何を狩ればいい」
私は淡々と答える。
すると、ギルドマスターはニヤリと笑い、背後で固まっていたカイルたち『青の鼓動』の三人を指差した。
「お前ら、近々Aランクへの昇格試験を受けるつもりだったな?」
「えっ? あ、はい! そのつもりで準備を……」
「ならちょうどいい。お前ら三人で、このユイってガキと一緒に依頼をこなしてこい。討伐対象は北の廃坑に巣食う『オーガキング』。推奨ランクAの厄介な案件だ」
「「「ええええっ!?」」」
カイル、ボルス、ミラが同時にすっとんきょうな声を上げた。
「マスター、いくら何でも無茶です! オーガキングといえば、Aランクパーティーでも死人が出るレベルの魔物ですよ! いくらユイちゃんが強くても……」
「馬鹿野郎、お前らがこのガキの強さを見極めるんだ。暗部出身だろうが何だろうが、ギルドに入った以上は冒険者だ。協調性ってもんがあるのか、実戦でどう動くのか、お前らがお目付け役として監視してこい」
ギルドマスターの言い分はもっともらしいが、どう見ても面倒なヤツ(私)の扱いを有望な若手に押し付けただけである。
しかし、カイルたちは真面目すぎた。ギルドマスターの言葉を「自分たちへの試練」かつ「危険な少女を更生させる任務」だと受け取ったらしい。
「……分かりました。俺たちが、ユイちゃんのサポートをします」
カイルが悲壮な決意を込めた顔で頷いた。
ミラとボルスも、ゴクリと唾を飲み込んで頷いている。
(いや、サポートとかいらないんだけど……)
私は内心で少し面倒くさくなりつつも、能面をキープした。
まあいい。道案内をしてくれるというなら好都合だ。それに、彼らの戦いぶりを見れば、一般的なB〜Aランクの基準もさらに正確にモニタリングできる。
「……足を引っ張るなよ」
私がぽつりと呟くと、カイルたちはビクッと肩を震わせた。
「も、もちろんだ! 君に怪我はさせないから!」
「そうよ、私たちはこれでも国で有数のパーティーなんだから!」
強がってはいるが、完全に怯え切っている。
こうして、期待の若手パーティー『青の鼓動』と、勘違いから彼らを引率(?)することになった私の、初めての合同クエストが幕を開けたのだった。




