第十三話 壁の穴と特例ランク、内心のガッツポーズ
静まり返ったギルド内に、ギィィ……と重苦しい音が響いた。
奥の扉が開き、現れたのは筋骨隆々で顔に大きな傷のある、いかにも歴戦の猛者といった雰囲気の初老の男だった。
「騒々しいな。新人の登録か何かで……なんだあの壁の風穴は」
ギルドマスター。モニタリングで顔は知っている。かつてはSランク冒険者として名を馳せた男だ。
彼は粉々になった測定用水晶の残骸と、木人があった場所から外の青空まで一直線に貫かれた巨大な穴を交互に見比べた。
「……ギ、ギルドマスター。こちらの少女が、測定で……」
受付のお姉さんが、震える声で私を指差した。
ギルドマスターの鋭い眼光が私を射抜く。
常人ならその威圧感だけで腰を抜かすだろうが、私からすればそよ風のようなものだ。私は能面を一切崩さず、彼を真っ直ぐに見つめ返した。
(怒られるかな。弁償しろって言われたら、あの白金貨で足りるだろうか。でも、目立てたし最高に気持ちよかったな)
内心でそんなアホなことを考えていると、ギルドマスターはゆっくりと歩み寄り、私の前で立ち止まった。
「……名前は」
「ユイだ」
「出身は」
「森の奥」
ギルドマスターはカイルたちの方をチラリと見た。カイルは顔面蒼白になりながら、首を横に振っている。「俺たちの仲間じゃない、拾っただけだ(意訳)」というサインだろう。
「……水晶を内側から崩壊させるほどの緻密かつ膨大な魔力。木人を衝撃波だけで粉砕する膂力。そして、この状況でも瞬き一つしないその尋常ならざる精神力……」
ギルドマスターが低く唸る。
「お前、どこかの『機関』の出身だな?」
(またそれか)
私は無言を貫いた。否定も肯定もしないのが、この手の中二病な勘違いを加速させるコツだと学習したからだ。
「……ふん。事情は聞かん。腕の立つ奴は歓迎するのがギルドの流儀だ。だが、その力を持ったままFランクからチマチマとゴブリン狩りをさせるわけにはいかん。他の冒険者のモチベーションに関わるからな」
ギルドマスターは受付のお姉さんに振り返った。
「おい、こいつを特例でAランクとして登録しろ」
「ええっ!?」
ギルド中から驚愕の声が上がった。
無理もない。Aランクといえば、カイルたち『青の鼓動』が目指している高みであり、国でも一握りのエリートだ。それを登録初日の十四歳の少女がいきなり取得するなど、前代未聞だろう。
(やったああああああ! 特例Aランク! めっちゃ主人公っぽい! めっちゃかっこいい!)
私の脳内では歓喜のファンファーレが鳴り響き、サンバのダンサーが踊り狂っていた。
しかし、表面上は微動だにしない。ここで喜べば、私の足元から波動砲が発射されてギルドが完全に更地になる。私は歯を食いしばり、魂の底から感情を凍結させた。
「……ふむ。特別扱いされても顔色一つ変えんか。恐ろしいガキだ」
ギルドマスターが呆れたように笑う。
「……ありがたく受け取っておく。だが、壁の修理代は」
「いい。あれくらいはギルドの経費で落としてやる。その代わり、Aランクとして相応の働きをしてもらうぞ」
こうして私は、ただ目立ちたかっただけのデコピン一発で、望み通りすぎるほどの高待遇と注目を浴びることになった。
後ろでカイルたちが「本物のバケモノを街に入れちまった……」と絶望的な顔をしていることには、とりあえず気づかないフリをしておいた。
こんな感じで特例Aランクになっちゃったけど、最初の依頼はどうする?ギルドマスターから直々にヤバい討伐依頼を任されるか、カイルたちの依頼に強引についていくか。




