第十二話 抑えきれない承認欲求と、可哀想な魔力水晶
「いいかいユイちゃん、ギルドに着いたら目立っちゃダメだよ。受付の人には適当に『そこらの村出身』って言っておくんだ。君の力を見せたら、間違いなく国中の厄介事に巻き込まれるからね」
ギルドの重厚な扉を前に、カイルが念を押すように言ってきた。
ミラとボルスも真剣な顔で頷いている。彼らは本気で私を「追われる身の元暗部少女」だと信じ込んで、守ろうとしてくれているのだ。
「……わかった。善処する」
私はいつもの能面で短く答えた。
だが、内心ではワクワクが止まらなかった。
実を言うと、私は昔から少し目立ちたがり屋なところがある。
この三年間、誰もいない森で一億倍の力を振るい、たった一人で「私って凄すぎ……」と悦に浸るのには限界があった。誰かに「凄い!」と言われたい。驚いた顔が見たい。
そんな十一歳……じゃなくて十四歳の少女らしい欲求が、デバフ魔法の奥底でチリチリと燃えていた。
「次の方、こちらへどうぞ」
受付の女性に呼ばれ、私はカイルたちに見守られながらカウンターへ向かった。
まずは魔力測定。出されたのは、バスケットボールほどの大きさがある透明な水晶だ。
「この水晶に手を触れて、少しだけ魔力を流してくださいね。それでランクの目安を測ります」
(少しだけ、か……。よし、この世界の『一般人(黒の剣基準)』の、さらに半分くらいにしておこう。それなら目立たないはずだ)
私は深呼吸をし、平常心を保つ。
そして、デバフを極限まで効かせた状態で、指先でちょんと水晶に触れた。
「凄い!」って思われたいけど、やりすぎは厳禁。そんな絶妙なラインを狙ったつもりだった。
パリンッ!!
「……あ」
触れた瞬間、水晶が内側から弾け飛んだ。
爆発したわけではない。私の魔力が入り込んだ瞬間、水晶がそのエネルギーを許容しきれず、分子レベルで構造が崩壊したのだ。
「……あ、あの、魔力測定用の『高純度ミスリル水晶』が、粉々に……!?」
受付のお姉さんが、口をパクパクさせて固まっている。
「ユ、ユイちゃん!?」
後ろで見ていたカイルたちが悲鳴を上げた。
「……すまない。少し、手が滑った。これは、私が弁償すればいいのか?」
私はあくまで無表情を貫いた。
内心では「よし、壊した! 測定不能ってやつだ! かっこいい!」と大興奮なのだが、それを表に出した瞬間、私の背後にあるギルドの壁が衝撃波で消失する。絶対に顔に出してはいけない。
「い、いや、弁償とかそういう問題じゃなくて……。この水晶、Sランク冒険者が全力で魔力を込めても傷一つ付かない特注品なんですけど……」
(えっ。……あ、そっか。私の『一般人基準』がSランクパーティーなんだから、その半分でもAランクかBランクのトップクラス。それに私の魔力は一億倍。……あ、これ、『少しだけ』のつもりでも、水晶からしたら太陽を直接ぶち込まれたようなものだったかも)
「……次は、あっちの木人にパンチすればいいのか?」
私は話題を逸らすように、隣にある筋力測定用の頑丈な木人を指差した。
もう止まらない。一度火がついた私の「見せつけたい欲」は、無意識に出力を上方修正させていた。
「あ、はい……。でも、あれも一応、鉄鋼並みの硬度を魔法で付与してあるので、無理はなさらず――」
私は木人の前に立った。
今度こそ、本当に優しく。
蚊を叩くよりも弱く、そっと「デコピン」を放った。
ズガァァァァァァァンッ!!!
木人は砕け散るどころか、その場の衝撃波で粉末状になり、背後の石壁をブチ抜いて遥か彼方の空へと消えていった。
「…………」
「…………」
ギルド内が、静まり返った。
カイルたちは頭を抱えて座り込み、他の冒険者たちは武器を落として呆然としている。
「……測定不能でいいか?」
私は振り返り、瞬き一つせずに受付のお姉さんに尋ねた。
(やった……! 全員引いてる! 私、めちゃくちゃ凄い奴に見えてるはず!)
こうして私は、登録初日にしてギルドの「要注意人物リスト」の筆頭に躍り出ることになった。
「目立たないように」というカイルの忠告は、開始五分で宇宙の彼方へ吹き飛んだのだった。




