第十話 勘違いのお節介と、命がけの食事マナー
「ほらユイちゃん、もっと食べなよ! 育ち盛りなんだから!」
「そうよそうよ。こんなに細っこくて、ちゃんとご飯食べてたの?」
城塞都市の大通りにある、冒険者御用達の賑やかな酒場兼宿屋。
その一角のテーブルで、私は山盛りの肉料理やパンを前にして、青の鼓動の三人から凄まじい接待を受けていた。
「……ありがとう」
私は感情の死んだ声で短く礼を言い、木製のフォークを手に取った。
遠隔モニタリングでこの世界の知識は得ていたものの、やはり限界はある。例えば、街の食堂でどんなメニューがいくらで提供されているかは知っていても、実際にそれをどういう力加減で切り分け、どう口に運べばいいかまでは分からなかったのだ。
(危ない。少しでも気を抜いたら、このフォークの柄が粉砕される……!)
私は全神経を指先に集中させ、常人の全力レベルに調整したデバフ状態からさらに力を抜き、限界ギリギリのソフトタッチで肉にフォークを突き刺した。
ぷつり、と肉に刺さる感覚。よし、皿は割っていない。テーブルも無事だ。
「ユイちゃんは、どこから来たんだい? ご両親は?」
カイルがエールを飲みながら、優しく尋ねてくる。
「……森の奥。ずっと一人で暮らしていた。だから、街のことはよく知らない」
嘘は言っていない。この三年間、本当に一人でサバイバルしていたのだから。
「一人で!? あんな危険な森で……なんて過酷な人生を送ってきたんだ」
大斧使いのボルスが、巨体を揺らしてボロボロと涙を流し始めた。いや、泣くほどのことじゃないんだが。森の魔物たちはみんな私のデコピンで散っていったし。
「そうだったのね……。だから感情を表に出すことも忘れてしまったのね。可哀想に」
ミラが私の頭を撫でてくる。
違う。感情を出したら君たちが宇宙の彼方まで吹き飛ぶからだ。
だが、この勘違いは好都合だった。
街のことはよく知らないという設定を利用すれば、不自然に思われることなく一般的な常識を彼らから聞き出すことができる。
「……質問がある。この街の宿屋の相場は。あと、冒険者ギルドの仕組みについて」
私がポツリと尋ねると、三人は「お兄さんお姉さんに任せなさい!」とばかりに、身を乗り出して色々なことを教えてくれた。
ギルドの依頼の受け方、魔石以外の素材の売り方、この国における身分証の重要性。モニタリングでは拾いきれなかった、生きた情報がどんどん集まってくる。
「なるほど。助かる」
私が淡々と頷きながら肉を咀嚼していると、カイルがふと真剣な顔になった。
「ユイちゃん、もし行く当てがないなら、しばらく俺たちと行動しないか? ギルドの登録や、街での生活に慣れるまでサポートするよ」
(えっ、マジで?)
内心では盛大に驚いたが、表面上は能面を維持する。
Sランク予備軍である彼らと行動すれば、色々な知識が手に入るし、何より一般人の基準をより正確にアジャストできそうだ。
「……足手まといになるかもしれないが」
「気にしないで! 私たちがしっかり守ってあげるから!」
ミラが胸を張って見せた。
こうして私は、彼らの過保護な庇護の下、一般常識と力加減を学ぶための奇妙な共同生活をスタートさせることになったのだった。




