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自由落下の断罪 ―瓦礫の空を舞う双剣―

リヒト「さて、俺たちも動かなければな……」


独りごちたリヒトは、重力を無視するような軽やかな身のこなしで屋根から魔石の部屋へと戻った。室内では、コンソールを離れたアムネジアが、高揚を隠しきれない異様な興奮を顔に浮かべて待ち構えていた。

アムネジア「あああっ! ついに! やってしまったね! 帝国を数百年守り続けたあの『結界』が、たった今、硝子細工のように砕け散ったよ!」

リヒト「お前が止めたんだろう……。他人事のように言うな」

アムネジア「それはそうなんだけどさ……! まあいい! さあ、約束だ! これからの混乱に乗じて、私を帝国の外へ連れ出してくれ! こんな退屈な檻とはおさらばだ!」

アムネジアが子供のような無邪気さでリヒトに詰め寄る。しかし、リヒトは足を止めることなく、冷徹に告げた。

リヒト「悪いな。それはもう少し先になる」

アムネジア「な、なんで……? 私は確かに約束を果たしたじゃないか!」

リヒト「俺たちは結界を壊すことだけが目的ではない。これから……」


ギーク(リヒト!! やべぇ!! そっちに……ッ!!)


ギークの、悲鳴にも似た緊迫した魔法思念がリヒトの脳内に突き刺さる。

その直後。リヒトが言葉を切り、反射的に魔成剣を錬成しかけた瞬間――北の魔石塔、その最上階が内側から爆ぜるように吹き飛んだ。


ズガガガガガァァァァァアアアン!!!!


落雷が直接脳を揺さぶるような轟音が、帝都の空を支配した。石材が粉々に砕け、鉄骨が飴細工のように捻じ切れる。リヒトの視界は一瞬にして砂塵と火炎に塗り潰された。

支えを失った塔の最上部が、巨大な質量となって崩壊を始める。

リヒトは足場を失い、崩れ落ちる瓦礫の奔流とともに空中に放り出された。地上数百メートルからの自由落下。


リヒト(――不意打ちか。今の衝撃、魔法でも物理でもない……)


リヒトは視界が回転する落下の中でも、思考の糸を一本も切らさなかった。即座に空中での姿勢を制御し、魔力を展開して空気の壁を作り出す。

そして、何よりも優先すべきは、この「衝撃」に巻き込まれ、今まさに空中で放り出されているであろうアムネジアの保護だ。彼を死なせては、約束を反故にすることになる。それだけは許されない。

リヒト「アムネジア!! どこだ!!」

猛烈な風切り音と瓦礫のぶつかり合う音の中、リヒトは魔力感知を全開にし、瓦礫の中に混じる「生きた気配」を必死に手繰り寄せた。


アムネジア「無事だ! 私も腐っても帝国軍の師団長、この程度で死ぬほどヤワじゃないよ!」

瓦礫の奔流の中、リヒトの視界にアムネジアの姿が飛び込んできた。彼は空中に浮遊する瓦礫を盾のように操り、衝撃を逃がしながら落下の速度を一定に保っている。

その魔力操作は正確で、非戦闘員と言いながらも帝国軍の要職にある実力を証明していた。

リヒト「ならそのまま身を隠せ! 何が起きるか分からないぞ!」

アムネジア「了解だーー!」

混乱の極致、リヒトがアムネジアの無事を確認したその直後だった。


ルーグ「なるほど。貴様が裏切り者か」


その声は、アムネジアのすぐ隣から、まるで元からそこにいたかのように、あまりにも自然に響いた。

アムネジア「……ひっ!? ル、ルーグ……様……!?」

ルーグ「裏切り者が私の名を呼ぶな。――消えろ」

冷酷な宣告と共に、ルーグは聖剣【カリバーン】を抜き放つ。陽光を反射し、白銀の閃光がアムネジアの首を刈り取るべく振り下ろされた。


キィィィン!!!!!


鼓膜を突き刺すような甲高い金属音が、自由落下を続ける空間に響き渡った。

リヒト「なるほど……。この塔の崩壊、お前の仕業だったか」

アムネジアの鼻先数センチ。

リヒトの放った一撃が、ルーグの白銀の刃を真っ向から受け止めていた。

ルーグ「ふふふ……ははははは!!! やはり!!! 来ていたか!!! リヒト・スカーレットォォ!!」

ルーグは歓喜に顔を歪め、三日月のような笑みを浮かべる。その瞳は、待ち望んでいた獲物を捕らえた喜びで爛々と輝いていた。

リヒト「……悪趣味な『贈り物』を遣わしてまで、お前が呼び寄せたんだろう!?」

リヒトの脳裏に、かつて中立国で目にした惨状――無辜むこの民が命を奪われ、見せしめとして磔にされていたあの光景が、煮え滾る怒りとともに蘇る。

ルーグ「そうだとも! 気に入ってもらえたかな? そうだと嬉しいのだけれどね!」

リヒト「……っ、貴様……!!」

ルーグ「そう怒るな! 私としても、あれは苦渋の決断だったんだよ。君をここへ誘い出すためだけに、わざわざあんな『手間』をかけたのだからね。許してほしいと思っているさ!!」

「苦渋の決断」――その言葉に、リヒトの奥歯が軋んだ。

罪なき人々を惨殺し、その尊厳すら踏みにじった行為を、まるで自分を呼ぶための「招待状」程度にしか考えていない男の傲慢。ルーグにとって、民の命など策を成すための消耗品に過ぎないのだ。

リヒト「……どこまでも胸糞悪い男だ。その不快な口、今ここで永遠に閉ざしてやる!!」

ルーグ「ああ、いいぞ! もっと私を愉しませてくれ!!」

激突する二つの魔力。

落下を続ける瓦礫を足場に、リヒトの重い斬撃とルーグの流麗な剣技が交差する。

一撃ごとに衝撃波が放たれ、空中に浮かぶ石材を粉々に粉砕していく。

自由落下という無重力に近い極限状態の中、リヒトは中立国の民の無念を、そして帝国の覇道に散った者たちの怒りをその刃に乗せ、ルーグへと叩きつけた。


リヒト「お前のようなものがいるから……!!」

怒りを乗せた刃は、打ち合うごとにその重みを増していく。聖剣【カリバーン】で受けるルーグの腕には、一撃ごとに骨を軋ませるような痺れが走り、その剣圧は落下の加速すら凌駕していた。

リヒト「いつまでも平和な世は生まれない……! そして、帝国は……変わらない!!」


ガァン!! ギィン!! ゴォン!!!


絶え間なく響く硬質な衝突音。

二人は自由落下を続ける瓦礫を、あたかも確かな大地であるかのように踏み台にして跳躍し、重力という理を無視して空中で激突し続ける。

戦況は拮抗しているかに見えたが、常に高所を取り、上段から断罪の重圧を叩き込み続けるリヒトが、わずかに、だが確実にルーグを圧倒し始めていた。

下手の位置に追い込まれ、防戦を強いられているルーグ。その端正な顔には、一瞬つまらなそうな影が差すものの、その瞳はかつてないほど爛々と輝いている。

闘技場で虚空を眺めていた時の退屈な王子の面影はなく、そこには「強者」との邂逅に酔いしれる一人の剣士がいた。

ルーグ「なるほど……。でもね、リヒト。真に平和を望むなら、我ら帝国の絶対的な支配を受けることこそが、最も合理的で平和への近道ではないかな?」

リヒト「――その結果、民が命を落とすことになってもか!?」

リヒトの脳裏には、先ほど魔石塔の下層で目にした地獄が焼き付いている。結界の維持という帝国の大義のために、限界まで魔力を搾り取られ、物言わぬ肉塊となって積み上げられていた夥しい数の骸。

その光景が、リヒトの言葉に、そして刃に、烈火のような熱量を与えた。

ルーグ「そうだね。平和のための犠牲はやむを得ないだろう? それが気に入らないと言うのであれば……」

空中で火花を散らす数合の打ち合い。

しかし、一瞬の隙――瓦礫の破片が入り混じる混沌の中、リヒトの足場が砕けたその隙を見逃さず、ルーグの身体がしなやかに翻った。

カリバーンの刀身が月光のような魔力を纏い、リヒトを地上へと力任せに打ち付ける。

ルーグ「力でねじ伏せてみろ!!」


ドゴオオオン!!!!


リヒトは数十メートルの高さから地面へと叩きつけられ、追うように降り注いだ巨大な瓦礫の山と共に、轟音を立てて砂埃の奥へと姿を消した。

その惨状を見下ろしながら、ルーグは音もなく、一羽の鳥が降り立つようにその場へ着地する。

砂塵が舞う中、彼は聖剣カリバーンを冷徹に構え、獲物が這い出てくるのを静かに待ち構えていた。

いつも読んでいただきありがとうございます!


ついに帝国vsジャッカルが始まりました!

いきなりトップ同士の戦いから幕を開けていくという衝撃の展開…。

ですが、ここからさらに二転三転と状況をコロコロ変えていきますのでお付き合いください!


今後ともよろしくお願いします!


※カクヨムにもおっかけ投稿を始めました。

スマホで読むのに適した量でやっていきますのでもしよければそちらでもお楽しみください!

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