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狂宴の幕開け ―剣聖第一席の宣戦布告―

ーー【実況席】ーー

そう掘り込まれた扉をゆっくりと開け、男は自分の戦うべき場所に一礼をして着席した。

手慣れた手つきで卓上に並べたのは、使い込まれた数種類の魔導具と、大陸全土から集結した手練れたちの名が記された分厚い名簿だ。

実況席の正面に広がる開放部からは、すでに数万人の観客が発する熱気が、物理的な圧力となって男の肌をチリチリと焼くように流れ込んでくる。視線を上げれば、そこには帝都ファウガストが誇る「巨大な檻」の底が広がっていた。一点の曇りもなく均された白砂の舞台は、これから刻まれるであろう戦士たちの足跡と、飛び散る鮮血を待ちわびるかのように、朝日に照らされて不気味なほど白く輝いている。

男は傍らに置かれた水差しからコップに水を注ぎ、一口、ゆっくりと喉を湿らせた。

喉を通る水の冷たさが、武者震いに似た高揚感を静かな覚悟へと変えていく。この日のために、男もまた戦士たちと同様に牙を研いできた。

大陸中の国々が注視するこの一大イベントにおいて、戦士たちの命を懸けた一挙手一投足を、その魂の咆哮を、一滴たりとも漏らさず言葉に変換して帝都の空に響かせること。それがこの席に座る者に課せられた、唯一にして絶対の使命だった。


地響きのような地鳴りが、闘技場の最上層から降ってくる。それは、待ちきれない観客たちが一斉に足を踏み鳴らす、期待と興奮のプレリュードだ。男は卓上の魔導具に指先を触れ、微かに通る魔力の振動を確認すると、口角をわずかに持ち上げた。

まだ誰もいない砂地を見据え、彼は自身の内側に眠る「声」を呼び起こす。

男「さあ、始めようか。歴史が動く音を、その耳に刻ませてやる」

独り言は猛烈な歓声に飲み込まれて消えたが、男の瞳にはすでに、これから始まる血と汗の狂宴が、残酷なほど鮮明に映し出されていた。重厚な角笛の音が空を裂き、ついに巨大な鉄門が、重々しい音を立てて開き始めた。


実況『レディーーース!!エーーン!!ジェントルメェーーーーン!!!』


男の声が、卓上の魔導具を通じて増幅され、雷鳴のような轟音となって闘技場内に響き渡った。

その瞬間、堰を切ったような割れんばかりの歓声が数万人の観客から沸き起こり、巨大な檻の壁にぶつかっては何度もこだまし、物理的な衝撃波となって空気を震わせる。

実況『お集まりいただいた紳士淑女の諸君!!今日という日を我々は、いや、この国は、否、この【世界】が!!!どれほど待ち侘びたことでしょうかあ!!』

マイクを握りしめる男の喉が限界まで震え、実況は一言ごとに狂気を孕んだ熱を帯びていく。

観客たちは、すでにこの男の独壇場に引きずり込まれていた。帝都の名物実況とまで言わしめるようになったその咆哮は、人々の生存本能を刺激し、期待交じりの歓声と耳を刺すような野次が、さらに男の言葉を後押しする燃料となっていく。


実況『我らサウスガルド帝国が威信をかけ、満を持して全ての国に挑戦状をたたきつけたぁ!この武闘会!!発起人であらせられる、我らが剣聖!!!第一席!!!ルゥウウウウウグ!!!ファーーー!!!!オォウガストォォオオオ!!!!その人の!!!降臨だああああ!!!』


刹那、先ほどまでの興奮が微温湯に思えるほどの、凄まじい地鳴りが闘技場を包み込んだ。それはもはや歓声という枠を通り越し、魂が震えるほどの熱狂。ある者は涙を流し、ある者は狂ったように名を叫ぶ。その光景は新興宗教の狂信的な儀式に近い異様さを放ち、見る者に本能的な恐怖さえ覚えさせるほど、ただ一人の男の登場を世界が祝福していた。


ーー瞬間

闘技場の中央に何かが飛来した。


ズドーーーン!!!!


空を断ち切るような風切り音の直後、鼓膜を震わせる轟音が響き渡った。この衝撃に、観客たちは本能的な恐怖から身を守るように一斉にどよめき、身を縮める。砂地の中央に、鈍く重い音を立てて深々と突き刺さり、周囲を濃密な砂埃に包み込んだそれは、

帝国最強の証――剣聖、ルーグ・ファー・オーガストの愛剣【カリバーン】であった。


主を待つ剣が放つ圧倒的な威圧感に、会場の空気が一瞬で凍りつく。そして、それに続くようにカリバーンのすぐ近くの空間が歪み、巨大な転移の魔法陣が眩いばかりの光を放った。白砂の舞台に描かれた幾何学模様の輝きを、数万の観客たちは息を呑み、瞬きさえ忘れて見守っていた。光が最高潮に達し、ゆっくりと収束していく。


ルーグ「さあ。始めようか。」


魔道具による拡声機能をフルに活用し、低く、それでいて闘技場の隅々にまで染み渡るような冷徹な一言が告げられた。魔法陣の中央、光の残滓の中からその男が姿を現した。

刹那、この日二度目の、そして先ほどまでを遥かに凌駕する割れんばかりの歓声が、暴風となって闘技場を駆け抜けたのである。


観客「ルーグ様ぁぁぁぁぁあ!!!!」

観客「登場でこんなに痺れるのかよ!!!」

観客「ああ…もう…カッコ良すぎる…。」


熱狂、羨望、そして畏怖。

形を変えた様々な声が、濁流となって闘技場内を跋扈する。その喧騒のすべては、突き刺さった愛剣の柄に静かに手をかけたルーグの耳にも、確かに届いていた。

だが、彼の視線はあくまでも冷ややかであり、その双眸はこの狂乱の先に潜む「真の目的」だけを捉えて離さない。


ルーグはおもむろに片手をあげ、観客の声を制する。

その一動作だけで、先ほどまで闘技場を揺るがしていた狂乱が嘘のように凪いだ。熱狂に身を任せていた数万の民が、まるで呼吸を合わせるようにして歓声を止めたのだ。その様は、帝都の民の一人ひとりが、ルーグという絶対的な個に忠誠を誓い、厳しく訓練された兵士であるかのような錯覚を抱かせた。

静寂が支配する巨大な檻の底で、ルーグが再び言葉を発した。


ルーグ「さて、私は堅苦しい挨拶は苦手だが…。この大会、大陸中に触れ回った…。その意図は聡明な皆ならすでに理解してくれているだろう!私達帝国は何者にも屈さない!武に自信があるのであれば我らに挑むといい!屈したのなら膝を折れ!軍門に降るのなら我らは拒まない!!そのために大陸の全てに触れ回った!!」


魔導具を通じて響き渡る声は、冷徹な響きの中に、隠しきれない覇気と威圧を孕んでいた。大陸全土への宣戦布告とも取れる傲岸不遜な物言いだが、それがルーグの口から語られるとき、それは逃れようのない真実として聴衆の鼓膜を震わせる。


ルーグ「そして!今日!この日!私の想定を上回るほどに!数多の戦士がこの場に集った!この大会の覇者よ!!私に挑め!!!私、サウスガルド帝国、剣聖が第一席!ルーグ・ファー・オーガスト!!!ここにあり!!」


短く、だが帝都の民の魂の最深部にまで響く熱き演説。自らを「壁」として提示し、世界中の強者を煽り立てるその姿に、観客たちはもはや声を出すことさえ忘れ、ただ圧倒的なカリスマの残光に目を焼かれていた。

演説を終えたルーグは、突き刺さっていたカリバーンを一息に引き抜くと、再び足元に展開された転移魔法の光の中に身を投じた。光が収束し、彼がその場からかき消えるように去った瞬間、張り詰めていた空気が爆発した。


実況『ルーグ様からのあつぅうういメッセージだ!!この私も思わず魂が泣いてしまったぜぇええ!!!』

実況席からも、もはや職務を逸脱した心酔に近いコメントが飛んできた。男の叫びは、震える喉の奥から絞り出された本心であり、それほどまでにルーグの存在は、この場にいる全ての者の理性を焼き尽くしていた。


しかし、実況はプロだ。

数万の観客が放つ熱狂の余韻に身を浸しながらも、彼は手元の資料を捲り、次の言葉では驚くほどの速さで平静を取り戻していた。その声音には、興奮を制御し、物語を次の段階へと進める冷徹なプロフェッショナリズムが宿っている。

実況『さて、今回の武闘会!大陸全土から集まった戦士の数はなんと驚愕の218人だ!!!多いじゃねぇか!!』

その数字が叩きつけられた瞬間、闘技場は再び驚きに満ちたどよめきに包まれた。218人。それは大陸中の「力」に自負を持つ者たちが、死を覚悟してなお、この帝都に集ったという重すぎる証左であった。


観客「なんて数だ!」

観客「そんなに集まってんのか!?」

観客「誰が勝つか賭けようぜ!」


ざわめく観客たちの声を煽るように、実況者はニヤリと口角を上げた。

実況『こんだけ人数がいるとトーナメントもかなりの時間を要する。ってことで!!大会運営本部からこんなルールが提示されてきたぞぉお!!オーープン!!!』

実況が鋭い掛け声を上げると同時に、闘技場の中央、先ほどまでルーグが立っていた空間に青白い魔力が収束し、巨大な魔法のスクリーンが浮かび上がった。空中に固定されたその輝く幕には、帝国の峻厳な言語で今回の武闘会を縛る「法」が刻まれていた。


1.一回戦はトーナメントではなくサバイバル戦

  218名→20名までとする。

2.勝敗のつけ方は次のうちのいずれかとする

  A.行動不能

  B.戦意喪失

  C.審判が続行不能と判断する

3.二回戦以降はトーナメントとし勝者は一名とする

4.シード枠に一名帝国より剣聖を参加させる

5.その他大会意思に反するものは即刻失格とする


過酷なふるいにかけるようなその内容に、会場の空気は一変し、殺気に似た緊張感が走り抜ける。

218名から一気に20名へ。

生き残るための「乱戦」が、この美しい白砂の舞台を地獄に変えることを、誰もが瞬時に悟った。


観客「サバイバルかよ!!」

観客「これは……」

観客「殺し合いじゃねえか!!」


魔法のスクリーンに映し出された非情な選別ルールに、観客たちは戦慄と興奮が入り混じった言葉を次々に投げかける。218名から20名へ。その数字が意味するのは、隣に立つ者すべてが敵であり、慈悲など無用という残酷な現実だ。しかし、観客の動揺を置き去りにするように、実況の声はさらに速度を上げ、熱を帯びていく。

実況『さて、ルールは理解してくれたかなー??そんなところでそろそろ出場者諸君の入場だ!!!』


その言葉が合図だった。

闘技場の広大な白砂の上に、無数の幾何学模様が瞬時に描き出される。広場全体を埋め尽くすように構築された218個の転移魔法陣が、脈動するような光を放った。次の瞬間、空間が弾けるような音と共に、大陸全土から集った218名の戦士たちが一斉に姿を現した。


観客「うおおおお!!!!」

観客「頑張れよおおおお!!!」

観客「いけえええええ!!!」


突如として現れた鋼の群れ、魔法の衣を纏う者、異国の異形を携えた猛者たち。その圧倒的な視覚的情報に、観客のボルテージは一気に爆発し、鼓膜を震わせる応援の濁流となって戦士たちに降り注ぐ。その声を受け、戦士たちもまた己の昂揚を抑えきれない。ある者は愛剣を高く掲げ、ある者は杖を突き立て、腹の底から絞り出した雄叫びを帝都の空へと突き上げた。

観客、実況、そして死地へと降り立った戦士たち。

それら全ての感情が一本の細い糸のように繋がり、この巨大な「檻」の中の温度は、もはや沸点を超えていた。


その群像の中には、当然のようにギークたちの姿もあった。

転移の閃光が収まり、硬い砂地を踏み締めた二人は、これから始まる血湧き肉躍る乱戦を前に、周囲の熱狂に紛れて人知れず高揚していた。

ギーク「きたなぁ!この日がぁ!ははっ!!」

ジャック「ギークさん!楽しみましょうね!」

やる気満々の二人である。

ギークはリヒトの言いつけを忠実に守り、愛用の槍を携えず、その両手は不気味なほどに軽い素手の状態だ。

対するジャックもまた、拳こそが唯一無二の武器であるため、極限まで無駄を削ぎ落とした身軽な格好でその場に降り立っていた。


ギーク「ああ……。ほとんどは大したこたぁねぇが、何人かやばいのが混ざってんな……」

ジャック「え? そうなんですか?」

ギークは鋭い眼光を走らせ、200人を超える有象無象の中から、本能が警鐘を鳴らす「個」を瞬時に見抜いていく。

ギーク「あぁ……。端の方にいるフードをした女ぁ、奥の方で構えてやがるじじぃ……。それからなんだ……飛鳥と似たような格好の集団もいやがるな……。楽しみだぜ」

ジャック「なら、まずはその人たちからやらないとダメですね? 他の人にやられたらもったいない!」


無邪気に闘争心を燃やすジャックだったが、その言葉が終わるより早く、ギークの鋭い手刀が彼の脳天を正確に撃ち抜いた。

ジャック「あだっ!? 何するんですか?」

ギーク「おまえはバカか? ここであいつらを消したら本戦の楽しみが減っちまうだろうが。そうなっちまったら、リヒトや他の連中が動く時間が減っちまうだろうがバカ。俺たちゃ、この大会、楽しみながらも時間を稼ぐ陽動だ。そこんとこぉ、忘れんな」

ジャック「あ、そういえばそうでしたね!」


そう。ギークたちは、ジャッカルが裏で確実に牙を剥くための時間を稼ぐ「表の陽動員」なのだ。

剣聖や王、そして帝国の全神経がこの華やかな舞台に集中している隙に、帝都襲撃のための策を成す空白を作り出す。そのための武闘会出場。ギークは、目前の獲物に目を奪われ、本質を見失いそうになっていたジャックを厳しく注意し、その意識を正したのである。

いつも読んでいただきありがとうございます!


ついに!

武闘会開幕となります!

開幕の際の言葉をどうしようかーとかどんな流れにしようかなーとか迷ってたところはあるんですがこんな形で許してもらえればと思います!


いろんな策謀が巡るこの武闘会ですが色々と紡ぎ合わせてきたピースたちを重ねる時が来そうです!


今後ともどうぞよろしくお願いします!

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