遠慮するなよ。――6
林間学校二日目、午前九時過ぎ。本日のレクリエーションのため、俺たちは宿泊施設の敷地内にあるキャンプ場を訪れていた。
二日目のレクリエーションは『キャンプ体験』。これから夕方まで、俺たちはキャンプ場で過ごし、テントの設営や昼食作りを行う。
昼食のメニューはカレーで決まっているのだが、釣り堀で捕ってきた魚を焼くこともできるそうだ。
配給されたキャンプ道具一式を前にして、俺たちは今後の話し合いをしていた。
「お昼ご飯はみんなで手分けして作るとしてー……まずはなにをしたらいいかな?」
「テントの設営、薪割り、釣りの三つじゃない?」
「なら、昨日の『謎解き宝探し』のときみたいに、分担してやらないか?」
「だったらさぁ? ペアも昨日と同じにしない?」
犬走さんと八重樫さんの会話に混ざるように提案すると、遊々子が乗ってくる。この流れは、事前に打ち合わせていたものだ。
望愛から事情を聞き出すには、やはり俺とふたりきりの状況が望ましい。その状況をどうやって作るか遊々子と相談した結果、『キャンプ体験』での役割分担に落ち着いた。
遊々子経由で頼み、橘さんたちの協力も得ている。準備は万端だ。
「いいアイデアじゃないかな? 一緒に頑張ったひと同士なら、息が合うだろうし」
「うん! あたしも賛成!」
橘さんのアシストもあり、俺と遊々子の意見は問題なく通った。
橘さんたちに感謝しながら、次のステップへと進む。
「役割分担なんだが、俺と望愛は薪割りがいいんじゃないか? 力仕事だし、男手がいると思うんだ」
「たしかに、柳父くんの言うとおりだね。望愛はどう? いい?」
「大丈夫! 任せて!」
「アタシの担当はテント設営にしてもらえると助かるな。釣りは……生きてる魚を触るのが、ちょっと……」
「おけおけ。ボクもそれで構わないよぉ」
「じゃあ、ウチとレンレンは釣りだね! いっぱい釣るぞー!」
役割分担も無事に終了。
ふぅ、と一息つくなか、遊々子がこちらに目配せしてきた。その眼差しが、『頼んだよ』と語っている。
『任せとけ』と口にする代わりに、俺は遊々子に頷きを返した。
早速、俺と望愛は薪置き場に向かった。
コンコンと薪を割る音はふたつだけ。薪が必要になるのがまだ先であるためか、俺たち以外に人影はない。
この状況は予測できていた。俺たち以外に来る者はいないだろうと見越して、俺は薪割りを選んだのだ。
狙い通り、望愛とふたりきりになれた。あとは、俺が上手く事情を聞き出せるかどうかだ。
昨日は、望愛に拒まれたことに動揺して聞き出せなかった。だが、同じ轍は踏まない。どれだけ拒まれようとも、しつこいと思われようとも、知ったことか。
なりふりなんて構っていられない! 俺は望愛を助けるんだ!
意を決して、切り出す。
「なあ、望愛?」
「なに?」
「昨日の続きになるんだが、なにがあったのか話してくれないか?」
「心配性だなぁ、ノリくんは。本当に大丈夫だって」
「大丈夫だと思えないから訊いてるんだよ」
「……あたしって、そんなに頼りない?」
「頼りないかどうかの話じゃない。いまの望愛は、どこか無理をしているように見えるんだ」
薪を割る手を止めて、望愛を見つめる。
「多分だけど、望愛は変わろうとしているんじゃないか? 周りに頼らなくなったのは、そのためだろ?」
「…………」
「変わろうとするのは悪いことじゃない。その意思も尊重する。けど、無理している望愛を黙って見てることなんてできないんだ。理由くらい話してくれたっていいだろ? 望愛の力になりたいんだよ、俺は」
「あ、あたしは……」
望愛の瞳が揺れた。それは、心の揺らぎの表れだ。
説き伏せるには、いましかない。
「教えてくれ、望愛」
勝負所と判断した俺は、さらに踏み込む。
望愛がキュッと唇を引き結び、再び口を開いた。
「やっぱり、ひとりで平気だよ」
なぜここまで強情になるのだろう? またしても、望愛は壁を作ってしまう。
「なんでだよ?」
「ノリくんに頼ってばかりいられないもん。あたしだけでも大丈夫だから」
「望愛……」
「大分薪を用意できたし、一度みんなのところに持っていくね?」
眉根を寄せる俺を尻目に、望愛は薪を抱え、逃げるように立ち去ってしまった。
昨日と同じような展開。だが、今日の俺は昨日と違う。
拒まれることは覚悟してたんだ! 挫けて堪るか!
不屈の精神で、望愛を追い掛けるべく立ち上がる。
そのときだった。
「ひゃっ!?」
薪が重すぎたのか、はたまた疲労のためか、脚をもつれさせて、望愛が転んでしまった。




