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遠慮するなよ。――4

『フィールドアスレチック』が終了した。


 望愛が頑張ってくれたおかげで予想していたよりポイントを稼げたが、それでも順位は真ん中あたりだ。


 しかし、逆転の目はある。


 昼食と自由時間を挟んで、午後の部のレクリエーション『謎解き宝探し』がはじまった。


『謎解き宝探し』は、宿泊施設のなかで行われる、脱出ゲームチックなレクリエーションだ。暗号を解読して施設内に隠された宝箱を探しだし、手に入れた宝箱の数に応じてポイントが加算される。


 レクリエーション開始時、それぞれの班には、全暗号カードのなかから一枚が配られる。暗号を解読すると、宝箱・次の暗号カード・次の暗号を解読するために必要なアイテムの場所が、わかるようになるわけだ。


 俺たちの班が本領を発揮するのは、この『謎解き宝探し』からだ。なにしろ、俺たちの班には、遊々子というチートキャラがいるのだから。


 規格外の頭脳を持つ遊々子なら、あっという()に暗号を解読してくれることだろう。真ん中辺りの順位(ここ)からでも、一位は射程圏内だ。


 最初の暗号カードをもらった俺たちは、談話スペースに集まっていた。


「ふむふむ……宝箱は、遊戯室にあるビリヤード台の下。次の暗号カードは、食堂にある棚の、上から二番目の引き出し。解読に必要なアイテムは、西階段の裏にあるみたいだねぇ」

「ゆっこ、もう解いちゃったの!?」


 俺の予想通り、遊々子は難なく暗号を解読した。あまりのスピードに、犬走さんが目を丸くしている。


「すご過ぎ! 早すぎ! ウチだったら、三〇分かかっても解けないくらい難しそうだったのに……!」

「こういうのは得意だからねぇ」


 瞳を輝かせて興奮する犬走さんに、遊々子が微笑みを返す。


 そんななか、橘さんが手を挙げた。


「探し物の場所は全部わかったことだし、手分けして取りに行かない? そのほうが効率がいいと思うんだけど」

「賛成。もたもたしてたら、ほかの班に宝箱を先取りされるかもしれないしね」


 橘さんの提案に、八重樫さんが賛同する。


 ふたりの意見を聞いて、しめた! と俺は思った。


 今日の望愛は様子がおかしい。午前の部のレクリエーションで不自然なくらい張り切っていたし、俺の手助けを拒んだ。それに、今日は一度も俺を誘惑していない。


 原因と結果がセットになっているように、望愛の異変には理由があるはずだ。


 しかし、ここで望愛に尋ねても、正直に答えてくれるかは定かじゃない。望愛は周りに気を回す性質(たち)だ。遊々子や橘さんたちに心配をかけないよう、はぐらかそうとする可能性がある。


 だから、橘さんの提案は渡りに船だった。自然な流れで望愛とふたりきりになれるのだから。


 誇張でも自意識過剰でもなく、俺は望愛に信頼されている。相手が俺だけならば、望愛は素直に事情を打ち明けてくれるだろう。


 そう算段した俺は、八重樫さん同様、橘さんの話に乗る。


「なら、俺は望愛と宝箱を取りにいこうと思う。いいか、望愛?」

「もちろん!」

紀樹と望愛ちゃん(きみら)はマストでペアだよねぇ。ボクは寧音ちゃんと次の暗号を取りにいこうかな」

「ん。OK」

「藍菜はわたしとだね」

「ういういー」


 反対意見はなく、ペアも担当もスムーズに決まった。目論見通り望愛とペアになれて、俺はこっそり拳を握る。


 遊々子がみんなに号令を掛けた。


「じゃあ、目当てのものを手に入れたら、再びここに集合ってことで」

「「「「「了解」」」」」


 取り決めを交わして、俺たちはそれぞれの目的地に向かった。




「あった!」


 遊戯室にて。


 ビリヤード台の下に潜り込んでいた望愛が、弾んだ声を上げる。出てきた望愛の腕には、探し物である宝箱がしっかりと抱えられていた。


「よしよし。一番乗りで手に入れられたな」

「うん! この調子で、ドンドン宝箱を見つけちゃおう!」

「張り切ってるな、望愛」

「午前の部で足を引っぱっちゃったからね。汚名は返上しないと」


 笑顔とともに望愛が答える。前向きなように思えるが、その発言には後ろめたさが見え隠れしていた。


 やっぱり、なにかがおかしい。


 眉をひそめて、望愛に尋ねる。


「なあ、望愛? 悩み事でもあるのか?」

「どうして?」

「望愛の様子、いつもと違うように感じるからさ」

「えっ?」


 俺の指摘に、望愛がギクリと顔を強張(こわば)らせる。図星の反応だ。


 疑念が確信に変わる。


 思った通り、望愛の異変にはなんらかの事情があるのだ。おそらくは、よくない類いの。


「よかったら話してくれないか? 力になれるかもしれないし」

「だ、大丈夫! なんでもないよ!」

「なんでもないってことはないだろ?」

「平気だから! ノリくんは気にしなくてもいいの!」


 望愛の態度は異常なくらい強情だ。怪訝を覚えながら、俺は訊く。


「もしかして、俺に気を遣ってるのか? だとしたら、遠慮することはないんだぞ?」

「遠慮なんてしてないよ!」

「けど……」

「本当に大丈夫だって!」


 どれだけ尋ねても、望愛のリアクションは変わらない。笑顔を浮かべながら、「大丈夫」「平気だから」と繰り返す。


 うろたえずにはいられなかった。俺が相手なら、望愛は素直に打ち明けてくれると思っていたから。ここまで拒まれるとは思ってもみなかったから。


「宝箱を見つけたことだし、談話スペースに戻ろう?」

「お、おい、望愛……」

「あたし、先に行ってるね?」


 予想外の事態に困惑しているうちに、望愛は話を切り上げ、クルリと背を向けてしまった。


 立ち去る望愛を追い掛けることもできず、俺は呆然と立ち尽くす。


 望愛の心が遠ざかってしまったような、見えない壁で阻まれているような、そんな錯覚に陥った。

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