遠慮するなよ。――3
レクリエーション開始から一時間が経過した。
俺たちが挑戦したアスレチックは六つ。それらすべてを全員がクリアしている。なかなか順調だ。
ただ、そろそろ休憩したいところだな。
思いながら、望愛の様子をうかがう。
望愛は汗をビッショリと掻き、肩で息をしていた。運動が苦手なのに、ここまで休憩なしでアスレチックに挑んできたのだ。疲れるのも無理はない。
休憩を提案しようかと考えていたところ、橘さんがみんなに呼びかけた。
「ねえ、一旦休憩しない? 望愛が疲れてるっぽいんだよね」
どうやら、望愛のことを気にかけていたのは、俺だけではなかったようだ。
思い返せば、遠足のときも、橘さんは望愛を気遣ってくれていた。面倒見がいいのかもしれない。
いいタイミングで提案してくれたな。ありがとう、橘さん。
心のなかで橘さんにお礼を言いながら、挙手とともに賛同する。
「俺もそれがいいと思う。ここまでノンストップで来たし、休むタイミングとしてはちょうどいいんじゃ――」
「待って!」
そんな俺の発言を望愛が遮った。反対されるとは思ってもみなかったので、呆気にとられてしまう。
俺がポカンとするなか、望愛が続ける。
「気遣ってくれてありがとう。でも、あたし、まだ大丈夫!」
「いいから休んどきな。あとで倒れられたら、それこそ迷惑だし」
「要約:無理しなくていいよ? アタシ、望愛が心配だな」
「ネオたんもこう言ってるし、休んでおこうよ」
「……蓮華、勝手に要約しないでくれる?」
八重樫さんと犬走さんも、望愛に休憩を勧めている。漫才めいたやり取りをしているが、橘さんも八重樫さんも犬走さんも、みんな望愛を気にかけているのだ。
「平気平気! ほら、元気いっぱい!」
それでも、望愛は首を縦に振らなかった。力こぶを作る動作で、疲れていないとアピールしている。
俺と橘さんたちは顔を見合わせた。
橘さんたちは複雑そうな顔をしている。俺も同じような表情だ。みんな、どう判断すべきか決めあぐねているのだ。
望愛が疲れているのは明白だ。休ませるのが妥当だろう。しかし、頑張りたいという望愛の気持ちを、無下にはしたくない。
腕組みをしながら、俺と橘さんたちは頭を悩ませる。
そんななか、遊々子が折衷案を出した。
「なら、ひとまずはこのまま進もう。それで、望愛ちゃんが無理しているように見えたら休憩するってのでどうかな?」
「あたしはそれでいいよ!」
遊々子の案に、望愛が元気よく賛成する。
遊々子の案ならば、望愛の気持ちを無下にしないで済むし、無理をさせることもない。落とし所としては適切だろう。
橘さんたちも俺と同じ考えらしく、納得の頷きを見せた。
橘さんたちに頷き返して、俺は念を押す。
「無理してたら、問答無用で休ませるからな」
「わかってるって」
ニパッと笑いながら、望愛が返事をした。
七つ目のアスレチックは、ロープを使っての急斜面昇りだった。
俺、遊々子、橘さん、犬走さん、八重樫さんの五人は問題なくクリア。ただ、望愛だけは苦戦している。
「うにゅうぅ……!」
汗だくになりながら奮闘しているが、望愛は上手くロープをたぐり寄せられない。斜面の中程で行き詰まっている。
「これは、休憩もやむなしだねぇ」
「ああ。バテバテだ」
苦笑する遊々子に同意して、俺は溜息をつく。
やっぱり、さっき休ませておくべきだったな。無茶しやがって。
やれやれと思いつつ、望愛に呼びかけた。
「待ってろ、望愛。いま助けに行くぞ」
「ダメ!」
斜面を下りようとする俺を望愛が止める。やけに強い語調で、どこか焦っているような声色だ。
「来ちゃダメだよ、ノリくん。ノリくんはもうクリアしてるんだから、体力は温存しておかないと」
「けど、お前を放っておけないだろ」
「大丈夫! あたし、ひとりでできるから!」
心配する俺に、望愛が笑顔を返してくる。
望愛の言動は、自立心の芽生えとも取れるものだ。それ自体は悪いことじゃない。
ただ、いまの望愛からは、そこはかとなく危うさを感じる。
明らかにおかしい。いつもの望愛じゃない。なにかあったのか?
俺は眉をひそめる。
胸騒ぎがした。




