幕間:後ろ向き
夢を見ていた。ノリくんと離ればなれになった、あの日の夢。
「ヤだよぉ! 離れたくないよぉ!」
「…………」
「ずっと一緒にいたいよぉ!」
「…………」
ノリくんとの別れに耐えられず、泣きじゃくるあたし。あたしの傍らにいるノリくんは、掛ける言葉を見つけられないのか、黙りこくっている。
ノリくんは沈んだ顔をしていた。その表情からは、寂しさが、切なさが、悲しみが、ひしひしと伝わってくる。
ノリくんも、あたしとの別れに打ちひしがれているのだ。本当は自分も泣き叫びたいのだ。それでも我慢しているのは、きっと、あたしを気遣ってのことだろう。
あたしは、そんなノリくんの優しさに甘えてしまった。ノリくんの悲しみに寄り添ってあげられなかった。
自分のことばかり考えて、ノリくんを困らせてしまったのだ。
目が覚めた。
睡眠を取ったにもかかわらず、あたしの体はズッシリと重く、起き上がる気になれない。おそらく、精神の不調が肉体にも影響を及ぼしているのだろう。
ぼんやりと天井を見上げながら、塊みたいに重い溜息をつく。
「また、あの夢か……」
あの悪夢を見るのははじめてではない。これまでに度々見てきた。ノリくんとの別れは、それだけあたしにとってトラウマだったのだ。
ノリくんと再会してからは見なくなっていたのだが……
「昨日、嫌なことがあったから、また見ちゃったのかな?」
あたしはそう推測する。
昨日、あたしは男のひとたちにナンパされた。しかも、ノリくんがそのひとたちに殴られてしまいそうになった。
あのときのことは、いま思い出してもゾッとする。あのときの恐怖に触発されて、また悪夢を見てしまったのかもしれない。
――そいつで満足できるの? そんな格好してんだから、男好きなんでしょ? きみ。
ナンパしてきたひとの言葉が蘇る。
『望愛はなにも悪くない』とノリくんは言ってくれたけど、やっぱり、あたしにも責任があると思う。
あたしが扇情的な格好をしていなければ、ナンパに遭うことはなかった。ナンパに遭わなければ、ノリくんが乱暴されそうになることもなかった。
ノリくんをトラブルに巻き込んだのは、あたしなのだ。
「あたし、なにも変わってないのかな?」
昨日、あたしがああいう格好をしていたのは、ノリくんの気を引きたかったから。あたしの身勝手が、ノリくんに迷惑をかけてしまった。
離ればなれになったあの日、あたしはノリくんの悲しみに寄り添ってあげられなかった。ノリくんの優しさに甘えて、泣きじゃくることしかできなかった。
いまもむかしも、あたしはノリくんに迷惑ばかりかけている。甘えてばかりいる。
「……そんなの、ヤだな」
ポツリと漏れた呟きは、あたししかいない部屋では、やけに大きく聞こえた。




