≒デート――5
昼食のあと、
「買いたいものがあるんだけど、付き合ってくれる?」
と望愛にお願いされて、俺たちはファッションビルの三階を訪れていた。
望愛に案内された店を前にして、俺はたじろぐ。
「望愛が買いたいものって、もしかして……」
「そ。下着だよ」
「そ、そうか」
望愛の回答に、乾いた笑いを漏らしてしまう。
無理もないことだ。男であり、女性との交際経験もない俺にとって、ランジェリーショップでの買い物は難易度が高すぎるのだ。
色とりどりの下着に囲まれているだけで、居心地が悪くてしかたがない。なにも悪いことをしてないのに、妙な罪悪感に苛まれてしまう。
「じゃあ、入ろっか」
「い、いや。俺は外で待ってる」
「ダメ」
「な、なんでだよ!?」
ランジェリーショップへの入店を拒もうとしたが、望愛が許してくれない。ふるふると首を横に振り、俺の逃げ道を断とうとする。
それでも必死に抗議していると、望愛が口を開いた。
「それじゃあ、意味がないからだよ」
「意味がない?」
眉をひそめる俺に頷きを見せる望愛。その頬は、ほのかに赤らんでいる。
「あたしの下着、ノ、ノリくんに選んでほしいから」
「はあ!?」
衝撃的な望愛の回答に、唖然とせずにいられなかった。
「ど、どうして俺が選ばないといけないんだよ!? そんなの、御免被るんだが!?」
「嫌なの?」
「嫌に決まってるだろ!」
「でも、男のひとは、自分の好きな下着を女性に着せたがるんだよね?」
「偏見が過ぎる! まあ、そういう趣味嗜好のひともいるだろうけど!」
「ノリくんは、そうじゃないの?」
「当たり前だ!」
「……からのー?」
「本音だっつぅの!」
全力で否定するが、望愛は聞き入れてくれない。「す、好きな下着をつけさせるチャンスだよー?」「ノリくん色に染めちゃいなよー?」と、しつこく迫ってくる。
どうしたものかと頭を悩ませるなか、ひとつの考えが思い浮かんだ。
もし、ここで俺が清楚な下着を選んだら、大胆な下着をつけることを、望愛はやめてくれるんじゃないだろうか?
不可抗力だが、俺は何度か望愛の下着を見てしまったことがある。その際、望愛がつけていた下着は、いつも大胆なデザインのものだった。
望愛は俺に、下着を選んでほしがっている。俺の好みの下着を知りたがっている。
だとしたら、『俺が清楚な下着を好んでいる』と思わせたら、好みに合わせてくれるのではないだろうか? 大胆な下着をやめてくれるのではないだろうか?
この作戦が上手くいけば、大胆な下着をやめさせられれば、望愛の誘惑の威力が下がる。現状は、ピンチでありチャンスでもあるというわけだ。
望愛が引く気配はないし、少しでもメリットになる選択肢をとるべきか。
悩んだ末、俺は決断する。
「わ、わかった。下着を選ばせてもらう」
「や、やっと乗り気になってくれた! なんだかんだ言って、ノリくんはやっぱり、好みの下着をあたしに着せたかったんだね?」
「……ノーコメントで」
「もー。ノリくんったら、むっつりさんなんだからー」
「ノーコメントで……!」
色づいた頬に両手を当てて、望愛がくねくねと身をよじる。
望愛がご機嫌になる一方、からかわれた俺は、ギリギリと歯ぎしりをしていた。
この作戦を成功させるには、『俺が望愛に好みの下着をつけさせたがっている』と思わせなければならない。言い返したくて堪らないけど、できないのだ。
我慢だ! 耐えろ、柳父紀樹! 屈辱的だけど! 恥辱的だけど!
羞恥心と不満感をなだめすかしながら、望愛と一緒にランジェリーショップに入店する。
陳列された大量のランジェリーと、それらを物色するシチュエーションに、頭がクラクラしてしまう。
気をしっかりと持て、俺!
怯みそうになる自分に活を入れる。
顔を背けたくなるのを堪えて選定を続けるなか、とある下着が目に留まった。
色は白。可愛さと落ち着きを兼ね備えたデザイン。布面積は大きめ。『清楚』という表現がピッタリだ。
よし。これにしよう。
「これなんてどうだ?」
上下セットのその下着を指さし、望愛にうかがう。
俺が選んだ下着を見て、望愛は目をしばたたかせた。
「あんまり色っぽくないんだね」
「不満か?」
「不満はないけど、意外だったんだよ。ノリくん、おとなしめの下着が好きなんだね」
「その発言、『派手めの下着が好き』みたいに聞こえるから、やめてくれる?」
俺がジト目で文句をつけるなか、ディスプレイフックに並ぶ下着を、望愛が確かめる。
「うんうん。あたしのサイズのやつもある。じゃあ、試着しよっかな」
「わかった。俺は外で待ってるから……」
「ノリくんもついてきてね?」
「いや、下着は選び終わったことだし……」
「ついてくるよね?」
「……わかったよ」
和やかながらも有無を言わせない望愛の態度に、俺は折れるほかなかった。
がっくりと肩を落とし、溜息をつく。
やっぱり望愛は、俺を逃してくれないみたいだ。




