≒デート――4
美術館を出る頃には、ちょうど昼時になっていた。
昼食をとるために俺たちが向かったのは、美術館付近のファッションビル。その一階にある、洋食レストランだ。
「料理が美味しいし、雰囲気もいいし、いい店だな」
「うん。ノリくんが頼んだポークソテーも美味しかったよ。あたしのオムライスはどうだった?」
「……美味かったけど、人前で食べさせ合いっこするのは勘弁してくれ。こっぱずかしくて、しかたなかったんだぞ」
「い、いいじゃん。恥ずかしいのはあたしも同じなんだし」
「だったら、なおさらやめろよ。どっちもダメージ負ってるじゃねぇか。誰も得してないんだが?」
食事を終えた俺たちは、食後のドリンクを口にしながら談笑する。
「お待たせしました。こちら、期間限定スイーツのたっぷり白桃パンケーキです」
その折り、隣にいる、男女ふたり組の席のほうから、店員の声が聞こえてきた。どうやら、デザートが運ばれてきたらしい。
「お、美味しそう……」
興味を引かれたのが、望愛の視線がそちらに釘付けになっている。
キラキラと目を輝かせた望愛は、興奮気味に俺に訊いてきた。
「ね! ね! もう一品注文していい?」
「食べたいんだな? 限定スイーツ」
「うんっ」
コクコクと何度も頷く望愛。仕草からいても立ってもいられない気持ちが伝わってきて、なんとも微笑ましい。
クツクツと笑いをかみ殺しながら、俺は答えた。
「望愛が食べたいなら注文したらいい。俺のことは気にしなくていいから」
「ありがとう!」
パアッとお日様みたいな笑顔を咲かせて、「すみませーん」と望愛が店員を呼ぶ。
いかにもワクワクした様子で注文する望愛を眺めていると、俺も興味を引かれてきた。
こんなにも望愛のテンションが上がってるんだし、相当美味そうなスイーツなんだろうなあ。どんな感じなんだろう?
隣の席を見ていなかったので、限定スイーツがどんなものか、俺はまだ知らない。
気になった俺は横を向いて――愕然とした。
四、五枚ほど積まれたパンケーキは、さながら塔のよう。それを覆い隠すほどの、たっぷり生クリーム。飾り付けられた桃は、少なく見積もっても三個分はありそうだ。
ホールケーキと見紛うほどの爆盛りスイーツ。ボリュームは、先ほど俺が食べたポークソテーセットよりもあるのではないだろうか? 注文した男女ふたり組も目を丸くしている。
あ、あんなの、望愛ひとりじゃ食べきれないだろ……!
頬をひくつかせる俺とは対照的に、注文を終えた望愛は、ルンルンと鼻歌を奏でていた。
「楽しみだな~♪」
「な、なあ、望愛? 俺も手伝おうか?」
「ノリくんも食べたいの?」
「い、いや、ひとりじゃ食べきれないかと思ってな」
「え? 全然大丈夫だよ?」
「マジか……」
開いた口が塞がらなかった。
あっけらかんと言ってのける望愛からは、気負いも虚勢も感じない。本当に、問題なく食べきれるようだ。
「す、すごいな、望愛は」
「えへへへ……なんで褒められてるのかわからないけど、嬉しい」
「驚いたよ。意外と大食いなんだな」
「あ、ああっ!」
驚愕と感心が混じった気分で言うと、望愛が『しまった!』と書かれているような顔になり、急にアタフタしはじめた。
「そそそそうかな? 大食いってほどじゃないと思うよ?」
「いや、食事のあとにあれだけのボリュームのデザートまで食べられるんだから、紛れもなく大食いだろ」
「ち、違うもん! いつもはそんなに食べないもん! 今日は本気を出してるだけだもん!」
なぜだかわからないが、望愛は頑なに大食いであることを認めようとしない。ムキになって否定している。
どうしてだろう? と首を捻った俺は、ひとつの考えに至った。
もしかしたら望愛は、大食いに対して悪いイメージを持っているのかもしれない。
俺は気にしないが、大食い=はしたないことと捉えるひともいるらしい。女性は体型を気にするので、その傾向はより強いだろう。
おそらく、望愛もそのタイプなのだ。俺に大食いと思われたくないからこそ、否定しているのだ。
普段は隠しているんだろうけど、限定スイーツが楽しみすぎて、ぼろを出しちゃったんだろうなあ。
苦笑しながら、アワアワし続ける望愛をフォローする。
「隠そうとしなくてもいいだろ。いっぱい食べるのは、健康的でいいんじゃないか?」
「で、でもぉ……」
「少なくとも、俺は気にしない。俺の前では我慢する必要はないぞ?」
「そう、かな?」
「おう」
不安げな望愛に、ニカッと笑いかける。
気にしていないことが伝わったのか、戸惑いを残しつつも望愛が頬を緩めて――やにわに、自分の胸を両手で掴んだ。
突然の奇行に、俺はギョッとする。
「ちょっ!? な、なにしてんだよ!?」
「い、言っておくけど、食べた分の栄養は、全部おっぱいに行くんだから!」
「まだ気にしてたんかい!」
ツッコむ俺に見せつけるように、望愛が胸を揺らす。スイカサイズの膨らみがたぷたぷと波打つ様は、大変目の毒だ。
「ほ、ほら! いっぱい食べたから、こんなに大きくなったんだからね!」
「わ、わかったから! 見せつけなくていいから!」
「ノリくんは大きなおっぱいが好きなんだし、嬉しいでしょ!?」
「大きな胸が好きなんて、言った覚えはないんだが!?」
テンパる望愛と、必死に止めようとする俺。
そんな俺たちのドタバタ劇は、隣の席のふたり組にしっかりと目撃されていた。
ふたり組は、温かい目をしながら苦笑いするという、器用なリアクションをしていた。




