≒デート――3
館内に入った俺たちは、一階の展示を鑑賞したあと、地下の一室にやって来た。
ここは、部屋そのものがアートになっている。
一言で表すと、学校のプール。プールの底に当たる部分が、この部屋だ。
ガラス張りの天井には水が溜められており、内側から外側に、外側からは内側に、水越しの光景を眺められるようになっていた。
天井を見上げた望愛が、「わあっ」と感嘆する。
「なんだか不思議な感じだね。普通、水面から見えるのは水底だから」
「ああ。水中の生き物は、こんな景色を見てるのかもしれないな」
「たしかに!」
興味津々といった様子で、キラキラと瞳を輝かせる望愛。
そんな望愛を、天井から差し込む陽光が照らした。
溜められた水の影響でマーブル模様になった陽光は、絶えず揺らめきながら望愛を彩る。
どこか幻想的で、どこまでも美しい光景に、思わず見とれてしまった。
「……綺麗だな」
感動のあまり、知らず知らず呟きが漏れる。
直後、望愛がクルリとこちらを向いた。
ドキッ! と心臓が跳ねる。
き、聞かれちゃったか!? いまの呟き!
ドギマギする俺に、望愛が屈託のない笑みを見せた。
「ね! 綺麗な光景だよね!」
「あ、ああ! そうだよな! 綺麗だよな! 光景が!」
呟きは望愛に聞こえてしまったようだが、『この部屋からの眺めが綺麗』という意味だと勘違いしてくれたらしい。『望愛が綺麗』という意味だとは気づかれていないようだ。
あ、危ねぇ危ねぇ。独占欲発言に続いて、またしても望愛に、からかいのネタを与えてしまうところだった。
再び望愛が天井を見上げるなか、俺は胸を撫で下ろす。
いまだに心臓が早鐘を打っている。ただ、その原因は緊張だけではない。とある感情によるものでもあった。
甘さのなかに、小さじ一杯の切なさを溶け込ませたような感情。
これは多分、ときめきだ。
妹分の望愛に、こんな気持ちを抱かされるとはな。
不思議な感慨深さを覚えて息をつくなか、
――なんだよ、それ!? ラブコメじゃん!
ふと、以前の遊々子の発言が頭を過った。
どうしていま、あの言葉を思い出したんだ? もしかして、このときめきがラブコメの予兆だとでも言うのか? 俺と望愛の関係はラブコメだとでも言うのか?
「……まさかな」
頭に浮かんだ可能性を、俺は一笑に付した。
望愛に対する認識は、出会ってからずっと『手のかかる妹』だ。肉親ではないのでときめくこともあるだろうけど、ラブコメには発展しないだろう。
……多分。




