≒デート――1
土曜日。望愛とのお出かけ当日。
午前九時半、待ち合わせ場所である公園の前に、俺は到着した。
望愛の姿はない。
「そりゃそうだよな。約束の時間まではまだまだなんだし」
腰に手を当てて、肩をすくめる。
約束の時間は一〇時。まだ三〇分もあるのだから、望愛がいないのは当然だろう。
約束の時間よりも早く到着することは、家を出る前にわかっていた。それでも来てしまったのは、『俺は今日、望愛とお出かけするんだ』と思ったら、ソワソワしてしまったからだ。ほかのことが手に着かず、いても立ってもいられなかったからだ。
「運動会前日の小学生かよ、俺は」
浮き足立ってしまっている自分が恥ずかしくて、誰に向けるでもなく呟く。
動画でも見て時間を潰そうと考えた、そのとき。
「あれ? ノリくん、もう来てたんだ?」
望愛の声が聞こえて、スマホを取り出そうとしていた手を止めた。
声がしたほうを向くと、小動物みたいに、望愛がとてとてとこちらに駆け寄ってきている。
「随分早かったね? そういうあたしもなんだけどさ」
「…………」
「ノリくんとお出かけするんだって思ったら、なんだかソワソワしちゃって……もしかして、ノリくんも同じだったりする?」
「…………」
近くまで来て話しかけてくる望愛に、俺は応じられなかった。望愛の格好が刺激的すぎて、言葉を失ってしまったからだ。
トップスはぴっちりとしたベージュのニット。胸元には、衣服としての機能性に反旗を翻すかのように、穴が空けられている。
ボトムスは黒いミニスカート。靴は黒いパンプスで、これまた黒色のニーソックスを穿いていた。
ミニスカートとニーソックスのあいだにできた絶対領域を引き立てるのは、黒いガーターベルト。
露出度だけで言えば、先日、俺の家に泊まりに来た際に身につけていた服装のほうが上だ。
しかし、ニットがぴっちりしている影響で、起伏に富んだボディーラインがくっきりと浮かび上がっていたり、胸元の穴から肌色の谷間が覗いていたり、ガーターベルトのせいで、むっちりした太ももに視線が引き寄せられてしまったりと、色っぽさはこちらが圧勝だった。見ているだけで、劣情に薪がくべられる。
暴力的なまでに蠱惑的な格好に、いけないとわかりながらも目が離せない。それは俺だけでないらしく、周囲にいる男性たちも、一様に望愛に目を向けていた。
それらの視線に気づいた途端、俺の胸中に言いようのないモヤモヤが生じる。
彼らの視線を遮るように、望愛の側に移動する。ジロリと睨めつけると、男性たちは気まずそうに視線を逸らした。
無遠慮に見やがって。まあ、俺も他人のことは言えないんだけど。
憤りと自嘲が半々な気分で鼻を鳴らしていると、キョトンとしながら望愛が訊いてきた。
「ノリくん、どうかしたの?」
「周りの男どもがジロジロ見てたから、ついな」
俺の返答に、望愛が目をパチクリさせる。
「それって、独占欲?」
「は、はあ!?」
望愛の指摘に、俺は声をひっくり返した。
「そ、そんなわけ――」
「違うの?」
慌てて否定しようとして、できなかった。
心の奥を見抜くように透明な目で、望愛がジッと見つめてきたからだ。さながら、偽りを咎めるかのように。
男たちの視線にモヤッとしたのは事実だし、望愛の指摘を否定しようとしたのも、図星の裏返しだ。望愛の言うとおり、俺は独占欲を抱いているのだろう。
素直に認めるのは照れくさかったので、ふいと視線を逸らしながら答える。
「……悪いかよ」
「ううん。全然」
ぶっきらぼうな俺の態度を気にするふうもなく、望愛がニパッと笑った。
恥ずかしいこと言わせるなよ、まったく。
照れくさいやら、むず痒いやら、居心地が悪いやらで、俺はガシガシと頭を掻く。
「と、とりあえず、行くか。合流したことだし」
「あ、待って」
「ん?」
話を切り上げて歩き出そうとしたところ、望愛が待ったを掛けた。
振り返ると、どこか強張った顔つきの望愛が、すー、はー、と深呼吸をして――
「え、えいっ」
「おわっ!?」
覚悟を決めるような掛け声とともに、抱きつくようにして俺と腕を組んできた。
必然的に、望愛の豊乳が俺の腕に押し付けられる。蒸したての中華まんみたいにフカフカで、かつ、わらび餅みたいにネットリとした柔らかさ。
望愛の不意打ちに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「お、おい、望愛!?」
「こ、こうしたほうが、あたしを隠しやすいでしょ? 男のひとに、ジロジロ見られたくないんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「……嫌?」
焦る俺に、頬を染めた望愛が、上目遣いで訊いてくる。
その仕草はズルいだろ……。
赤らんだ頬と潤んだ瞳に、否応なしに胸が高鳴る。顔が熱を帯びるのを感じて、見られないようにそっぽを向いた。
「……嫌じゃない」
「そっか……よかった」
安心したように、望愛が口元をふにゃりとほころばせた。無垢な少女みたいな微笑みに、俺の顔がさらに熱くなる。
ふたり揃って赤い顔をしながら、俺たちは歩き出した。




