功には禄を――1
ゴールデンウィーク明け。俺は今朝も、望愛とふたりで登校していた。
いつもの通学路。いつもと変わらない風景。
ただ、望愛の様子だけはいつもと違う。
「はぁ……」
何度目かもわからない溜息をつく望愛。うなだれる姿は、塩をかけられたカタツムリみたいに弱々しい。
俺の家で顔を合わせたときから、望愛はずっとこの調子だ。浮かない出来事でもあったのだろうか?
心配になって、望愛に尋ねる。
「憂鬱そうだけど、悩みでもあるのか?」
「まあ、ちょっとね」
「俺でよければ相談に乗るぞ? 力になれるかもしれないし」
「ノリくん……」
『じーん』の擬音が似合うように瞳を潤ませて、望愛がペコリと頭を下げた。
「あたしに勉強を教えてくれませんか!?」
「勉強?」
唐突なお願いに、俺は眉を揺らす。
顔を上げた望愛が首肯した。
「次の中間テストで、あたし、赤点取っちゃうかもしれないの」
「なるほど。そりゃあ、憂鬱にもなるわな」
「うん。もともと勉強が苦手だし、そのうえ、ほかのことに気を取られていたせいで、テスト勉強もしてなくて……」
「ほかのことに気を取られていたせいで?」
「あっ! と、とにかく、ピンチなの! だから、ノリくんに勉強を教えてほしいの!」
アタフタした望愛が、再び頭を下げる。
いま、明らかに話をはぐらかされたけど……まあ、そんなことはどうでもいいか。それよりも、望愛を助けることが先決だ。
頭を切り替えて、考える。
望愛のお願いを聞くことに抵抗はない。困っている望愛を助けられるし、誰かに勉強を教えることは、自分の復習にも繋がるのだから。
ただ、ひとつだけ懸念があった。
俺だけで事足りるのか?
俺の成績は中の上。苦手な科目はないが、際立って得意な科目もない。俺ひとりで、望愛が赤点を回避できるようになるまで教えられるだろうか?
腕組みをして「うーん……」と唸る。
そうこうしているうちに学校に着いた。
昇降口に向かうと、靴を履き替えている遊々子の姿が映る。
そこで閃いた。
そうだ! 遊々子に手伝ってもらおう!
ふざけた言動が目立つ遊々子だが、その実、とてつもなく頭がいい。中学時代、基本五教科・実技教科ともに学年トップクラスで、テストでは満点を取れなかったことのほうが珍しい。高校の授業でも難題をすらすら解いていた。
遊々子が味方になってくれれば百人力だ! 望愛と仲もいいし、力を借りる相手としてはこの上ない!
そう考えた俺は、早速遊々子に声をかける。
「おはよう、遊々子」
「おー、紀樹に望愛ちゃん、おはよー」
「いきなりなんだが、遊々子に頼みたいことがある」
「本当にいきなりだねぇ。なんだい?」
「俺と一緒に、望愛に勉強を教えてくれないか? 中間テスト、危ないらしいんだ」
「あー……」
俺の話を聞いた遊々子は、ばつが悪そうに頬を掻いた。
「悪いけど、引き受けられそうにないなぁ。お兄からプログラミングの手伝いをお願いされてて、しばらく暇がないんだよぉ」
「そうなのか……」
「そうそう。今回は本当に」
「今回は本当に?」
「とにかく、ボクは力になれそうにないから、紀樹と望愛ちゃんはふたりで勉強してもらえるかい? ふたりで」
遊々子が両手を合わせて、「ごねんねぇ」と謝ってくる。
遊々子が協力してくれれば心強かったのだが、先約があるならしかたがない。俺だけでなんとかするとしよう。
それにしても、遊々子のやつ、『ふたりで』の部分をやたら強調していたような……って、あれ? このやり取り、前にもしてなかったか? ……まあ、いいか。
遊々子の言葉に引っかかるものを感じたが、いまの最優先事項は望愛に勉強を教えることだ。些細なことを気にかけている場合じゃない。
違和感を頭の片隅に追いやって、望愛に向かって頷く。
「よし、わかった。望愛の頼み、引き受ける」
「本当!? ありがとう、ノリくん!」
「テストまで時間がない。テスト勉強、今日からはじめるぞ」
「了解です!」
望愛がビシッと敬礼した。




