表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/67

ひとつ屋根の下――4

 気恥ずかしさを感じながらも、望愛を自室に招待する。


「おおーっ! やっぱり、むかしと違うね!」


 招き入れられた望愛が、キョロキョロと室内を見渡した。キラキラと目を輝かせて、いかにも興味津々といった様子だ。


 そんな望愛を眺める俺は、むず痒さと高揚感が混じり合ったような、妙な気分に陥っていた。体がカッカと熱を帯び、鼓動が忙しなく駆けている。


 どうしたっていうんだよ、俺は。子供のころは、こんなことなかったのに……。


 俺が謎の異変に戸惑う一方、望愛は相変わらず、無邪気に室内探訪を楽しんでいた。


「むかしお邪魔したときより、落ち着いた感じになってるね」

「そりゃあ、前は子供だったしな」

「あっ! このマンガ、読んだことある! ノリくん、こういうジャンルが好きなんだ」

「あんまり物色するなよ。ただでさえ恥ずかしいんだから」

「エッチな本はどこにあるの? ベタだけど、ベッドの下?」

「あるわけねぇだろ!」

「またまたー。年頃の男の子が持ってないわけないじゃん」

「ないっつぅの。望愛じゃあるまいし」

「ふゃっ!? あ、あたしだけじゃないもん! ギャルならみんな持ってるもん!」


 ニヤニヤ笑いを浮かべていた望愛の顔が、俺のカウンターを食らって、トマトみたいに真っ赤になる。


 アタフタしながら、エロ本を見つけられたときと同じ暴論(言い訳)を口にする望愛。そんな望愛を眺めて、今度はこっちがニヤニヤ笑った。


 (うち)に来てからずっと望愛のペースだったけど、なんとか一発やり返せたな。ちょっとスッキリした。


「さてと。じゃあ、飲み物とってくるわ。紅茶でよかったか?」

「うん。あ、ちょっと待って」


 キッチンに向かおうとした俺を呼び止めて、望愛がキャリーケースを開ける。取り出されたのは、白いビニール袋だ。


「これ、冷蔵庫に入れておいてもらえないかな?」

「いいけど、なにが入ってるんだ? この袋」

「内緒。あとのお楽しみだよ」


 人差し指を口元に寄せて、望愛がウインクした。


 気になるけど、いまは聞かないでおくか。『あとのお楽しみ』らしいし。


 納得した俺は、望愛から袋を受け取る。


「わかった。冷蔵庫でいいんだな?」

「うん。お願いね」

「……念のため言っておくが、俺がいないあいだに家捜しとかするんじゃないぞ?」

「振り?」

「違ぇわ! マジでやめてくれよ!?」

「冗談だよ。漁ったりしないから、安心して?」

「まったく……勘弁してくれ」


 たちの悪い冗談にげんなりする。


 一抹の不安を感じながらも、俺はキッチンに向かった。




 望愛に頼まれたとおり、受け取った袋を冷蔵庫に入れる。


 電気ケトルでお湯を沸かしつつ、棚から紅茶の缶を取り出した。


 缶の蓋を開けて、俺は眉をひそめる。茶葉がほとんど残ってなかったからだ。この量では、一杯分にも満たないだろう。


「望愛が来る前に、ちゃんとチェックしておくべきだったな」


 自分のミスにぼやき、代わりのリクエストを望愛に訊くため、一旦部屋に戻る。


「悪い、望愛。紅茶を切らしてるんだが――」


 ドアを開けた直後、俺は固まった。


「~~~~♪」


 望愛が俺のベッドに寝転がり、枕に顔を(うず)めていたからだ。


 グリグリと枕に顔を擦りつける望愛は、ご機嫌そうに足をバタバタさせている。


 衝撃的な光景に、理解が追いつかない。言葉も出ない。まるで、前頭葉がストライキを起こしてしまったかのようだ。


 困惑のあまり、俺は後退(あとずさ)る。その拍子に、ドアに手をぶつけてしまった。


 ガンッ


「みゃっ!?」


 物音に気づいた望愛が、毛を逆立てる猫みたいにガバッと起き上がる。


 勢いよくこちらを向いた望愛は、呆然と立ち尽くす俺を見て、目を白黒させた。


「ノノノノリくん!? なんで!? 戻ってくるには早すぎるんじゃ……!?」

「紅茶を切らしてたから、代わりのリクエストを訊きにきたんだよ」

「そ、そうなんだ」

「それでだな……望愛はなにをしているんだ?」

「ここここれは……えと……えと……や、休んでたの!」

「休んでた?」

「そう! ノリくん家(ここ)まで歩いてきて、ちょっと疲れちゃったから! それだけなの! 変な意図はないの! 下心はないの!」

「そ、そうか」


 望愛が暮らしているマンションから俺の家までは、五分ほどで着く。歩き疲れるような距離ではない。実際、ここに来てから望愛ははしゃぎっぱなしだ。疲れているようには見えない。


 仮に疲れているとしても、枕に顔を埋めていたことには説明がつかない。望愛の言ってることが嘘なのは、まず間違いないだろう。


 ただ、それでも俺は、望愛の嘘を暴こうとはしなかった。問いただそうとは思わなかった。


 真相を知るのが、ちょっと怖かったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ