ひとつ屋根の下――4
気恥ずかしさを感じながらも、望愛を自室に招待する。
「おおーっ! やっぱり、むかしと違うね!」
招き入れられた望愛が、キョロキョロと室内を見渡した。キラキラと目を輝かせて、いかにも興味津々といった様子だ。
そんな望愛を眺める俺は、むず痒さと高揚感が混じり合ったような、妙な気分に陥っていた。体がカッカと熱を帯び、鼓動が忙しなく駆けている。
どうしたっていうんだよ、俺は。子供のころは、こんなことなかったのに……。
俺が謎の異変に戸惑う一方、望愛は相変わらず、無邪気に室内探訪を楽しんでいた。
「むかしお邪魔したときより、落ち着いた感じになってるね」
「そりゃあ、前は子供だったしな」
「あっ! このマンガ、読んだことある! ノリくん、こういうジャンルが好きなんだ」
「あんまり物色するなよ。ただでさえ恥ずかしいんだから」
「エッチな本はどこにあるの? ベタだけど、ベッドの下?」
「あるわけねぇだろ!」
「またまたー。年頃の男の子が持ってないわけないじゃん」
「ないっつぅの。望愛じゃあるまいし」
「ふゃっ!? あ、あたしだけじゃないもん! ギャルならみんな持ってるもん!」
ニヤニヤ笑いを浮かべていた望愛の顔が、俺のカウンターを食らって、トマトみたいに真っ赤になる。
アタフタしながら、エロ本を見つけられたときと同じ暴論を口にする望愛。そんな望愛を眺めて、今度はこっちがニヤニヤ笑った。
家に来てからずっと望愛のペースだったけど、なんとか一発やり返せたな。ちょっとスッキリした。
「さてと。じゃあ、飲み物とってくるわ。紅茶でよかったか?」
「うん。あ、ちょっと待って」
キッチンに向かおうとした俺を呼び止めて、望愛がキャリーケースを開ける。取り出されたのは、白いビニール袋だ。
「これ、冷蔵庫に入れておいてもらえないかな?」
「いいけど、なにが入ってるんだ? この袋」
「内緒。あとのお楽しみだよ」
人差し指を口元に寄せて、望愛がウインクした。
気になるけど、いまは聞かないでおくか。『あとのお楽しみ』らしいし。
納得した俺は、望愛から袋を受け取る。
「わかった。冷蔵庫でいいんだな?」
「うん。お願いね」
「……念のため言っておくが、俺がいないあいだに家捜しとかするんじゃないぞ?」
「振り?」
「違ぇわ! マジでやめてくれよ!?」
「冗談だよ。漁ったりしないから、安心して?」
「まったく……勘弁してくれ」
たちの悪い冗談にげんなりする。
一抹の不安を感じながらも、俺はキッチンに向かった。
望愛に頼まれたとおり、受け取った袋を冷蔵庫に入れる。
電気ケトルでお湯を沸かしつつ、棚から紅茶の缶を取り出した。
缶の蓋を開けて、俺は眉をひそめる。茶葉がほとんど残ってなかったからだ。この量では、一杯分にも満たないだろう。
「望愛が来る前に、ちゃんとチェックしておくべきだったな」
自分のミスにぼやき、代わりのリクエストを望愛に訊くため、一旦部屋に戻る。
「悪い、望愛。紅茶を切らしてるんだが――」
ドアを開けた直後、俺は固まった。
「~~~~♪」
望愛が俺のベッドに寝転がり、枕に顔を埋めていたからだ。
グリグリと枕に顔を擦りつける望愛は、ご機嫌そうに足をバタバタさせている。
衝撃的な光景に、理解が追いつかない。言葉も出ない。まるで、前頭葉がストライキを起こしてしまったかのようだ。
困惑のあまり、俺は後退る。その拍子に、ドアに手をぶつけてしまった。
ガンッ
「みゃっ!?」
物音に気づいた望愛が、毛を逆立てる猫みたいにガバッと起き上がる。
勢いよくこちらを向いた望愛は、呆然と立ち尽くす俺を見て、目を白黒させた。
「ノノノノリくん!? なんで!? 戻ってくるには早すぎるんじゃ……!?」
「紅茶を切らしてたから、代わりのリクエストを訊きにきたんだよ」
「そ、そうなんだ」
「それでだな……望愛はなにをしているんだ?」
「ここここれは……えと……えと……や、休んでたの!」
「休んでた?」
「そう! ノリくん家まで歩いてきて、ちょっと疲れちゃったから! それだけなの! 変な意図はないの! 下心はないの!」
「そ、そうか」
望愛が暮らしているマンションから俺の家までは、五分ほどで着く。歩き疲れるような距離ではない。実際、ここに来てから望愛ははしゃぎっぱなしだ。疲れているようには見えない。
仮に疲れているとしても、枕に顔を埋めていたことには説明がつかない。望愛の言ってることが嘘なのは、まず間違いないだろう。
ただ、それでも俺は、望愛の嘘を暴こうとはしなかった。問いただそうとは思わなかった。
真相を知るのが、ちょっと怖かったからだ。




