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偶発的・押してダメなら引いてみろ――4

 シートを並べて敷き、ウェットティッシュで手をしっかり消毒して、昼食にありつく。


「おーっ! 美味しそう!」

「お眼鏡に適ったのなら、なによりだ」


 弁当箱の蓋を開けた望愛が、目をキラキラさせる。


 弁当の中身は、煮卵、レンコンのきんぴら、小松菜のおひたし、野菜のピクルスなど。俺のも望愛のも基本的に同じ内容だが、まったく一緒では面白みがないので、メインのおかずは変えている。俺のほうは豚の西京焼きで、望愛のほうは(とり)の照り焼きだ。


 待ちきれないとばかりに、望愛がこちらを見てくる。苦笑して手を合わせると、望愛も俺に倣った。


「「いただきます」」


 いかにもワクワクした様子で、望愛が箸をとる。


 レンコンのきんぴらを口に運んだ望愛は、モグモグと咀嚼し、頬に手を当てて、「んーっ」と目を細めた。


「美味しい……生きててよかった」

「大袈裟だなあ」

「大袈裟じゃないもん! 毎日食べたいくらいだよ!」

「そ、そうか」


 無邪気な笑顔とともに、望愛がべた褒めしてくる。


 手放しの賞賛が照れくさくて、俺は逃げるように視線を下ろし、豚の西京焼きをかじった。焦げた味噌の香ばしさと、豚のうま味が調和している。自画自賛になってしまうが、いい出来だ。


「うむ」と満足の頷きをしていると、望愛が鶏の照り焼きをつまみ、こちらに差し出してきた。


「ノ、ノリくん。あーん」

「へ?」


 唐突な展開にポカンとしてしまう。俺があんぐりと口を開けるなか、望愛は頬を朱に染めていた。


「お弁当作ってくれたから、そのお礼」

「で、でも、間接キスになっちゃうだろ」


 うろたえずにいられない。望愛はすでに箸に口を付けている。その箸であーんをすれば、必然的に間接キスになってしまうのだから。


 ふっくらしたブロッサムピンクの唇に、視線が吸い寄せられてしまう。逆上(のぼ)せたように顔が熱くなり、バクバクと心臓が跳ねる。


「だ、大丈夫! あたしは気にしないから! 全然! これっぽっちも!」

「俺は気にするんだが!?」

「い、いいからいいから! 早くしないと、タレがこぼれちゃうよ?」

「う……っ」


 俺がためらうも、望愛に引く気配はない。促すように箸を突き出し、期待と緊張がない交ぜになったような目で、ジッとこちらを見つめてくる。


 に、逃げられそうにない……ま、まあ、望愛はお礼のつもりでやってるみたいだし、気にしないとも言ってるし、変に意識するほうがおかしいのか?


 動揺のあまり、自分が混乱している気がする。しかし、冷静になったら余計に恥ずかしくなるだろう。いまは勢いに任せたほうがいいのかもしれない。


「あ、あーん」


 腹を括り、差し出された鶏の照り焼きに顔を寄せる。


 パクリと口にしようとして――できなかった。直前で、望愛が箸を引っ込めたからだ。


「……えーと?」

「あ、ゴ、ゴメンゴメン。はい、あーん」


 呆然とする俺に、望愛が改めて箸を差し出してくる。


 ただし、先ほどとは異なる点があった。望愛が、突っ張り棒みたいにピーンと腕を伸ばしているのだ。まるで、俺に近寄られまいとするかのように。


 望愛の態度を目にして、ある恐ろしい可能性が頭を(よぎ)った。


 もしかして、俺、望愛に避けられてる?

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