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偶発的・押してダメなら引いてみろ――3

 自然公園には十一時頃に到着した。ここから二時間、自由行動になる。


「やっと到着したよぉ」

「お疲れさん。まず、なにをしよう――」

「ご飯!」

「食い気味」


 あまりの即答具合に、俺は苦笑する。「えへへへ」とはにかんで、望愛が続けた。


「しょうがないじゃん。お弁当、ノリくんが作ってきてくれたんだから」


 望愛はいつも購買で昼食を調達しているのだが、それでは栄養不足なんじゃないかと、ずっと気がかりだった。


 そこで、英一さんと対面したあの日、


「よかったら、望愛の弁当を作りましょうか?」


 と提案したのだ。


「ありがたい話だけど、紀樹くんの負担にならないかい?」


 と英一さんが懸念(けねん)したので、


「じゃあ、一度試してみましょう。ちょうど、近々遠足がありますし、そのときにでも」


 ということになったのだった。


 望愛が期待の眼差しを向けてくる。おやつを前にした猫みたいだなあ、と微笑ましく思いながら、リュックから弁当の袋を取り出した。


「ほい。約束の弁当」

「わぁ! 嬉しい!」

「そこまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があるってもんだ」


 輝かんばかりの笑みを見せる望愛に、自然とこちらの顔もほころぶ。


「わざわざありがとう、ノリくん」

「気にするな。案外、手はかからなかったし」

「そうなの? ふたり分なのに?」

「基本的に、食材の分量を増やせばいいだけだからな。おかずには常備菜も入れてるんだけど、そっちは調理する必要すらない。トータルの手間はほとんど変わらなかった」

「なら、パパに言ってたように……」

「ああ。これからは、俺が望愛の弁当を用意するよ」

「やったぁ!」


 伝えると、望愛が目を『><』にしてピョンピョン飛び跳ねる。さながら、嬉しさのあまり走り回る(わんこ)のようだ。


 こっちが世話を焼いてるわけだけど、逆に得した気分になるよな。本当、可愛げがあるやつだよ、望愛は。


 満足感を覚えて、俺は笑み交じりの吐息を漏らした。


「さ。(めし)にしよう」

「はーい♪」


 レジャーシートを敷こうとリュックを下ろして――ふと思う。


 どうせなら、もうひとりかふたり、一緒に食べるやつが欲しいな。


 遠足は特別なイベントなのだから、せっかくなら食事も賑やかなほうがいい。望愛も、そのほうが楽しいだろう。


 腕組みしながら考えていると、視界に遊々子の姿が映った。


 望愛とのあいだにトラブル(?)があった遊々子だが、どうやらふたりは和解したらしく、近頃は仲良くしている。食事に誘うにはピッタリだろう。


 思い、俺は呼びかける。


「おーい、遊々子!」

「なんだい、紀樹?」

「昼飯、俺たちと一緒にどうだ?」

「……ふむ」


 誘われた遊々子は、考え込むように顎に指を当てた。


 遊々子の反応に、俺は違和感を得る。


 遊々子はノリがいいし、てっきり快諾してくれると思ったんだが……用事でもあるのか?


「ねー、ゆっこー! ウチらとご飯食べようよー!」


「うーん……」と首を捻っていると、割り込むみたいに犬走さんの声が聞こえてきた。


 両手で筒を作り、メガホン代わりにしている犬走さん。その傍らには、橘さんと八重樫さんの姿もある。


 犬走さんたちのほうをチラリと見やり、遊々子が俺に手を合わせた。


「ごめん、紀樹。今日は藍菜ちゃんたちの誘いに乗ってもいいかい? 紀樹の誘いはもちろん嬉しいけど、ボクたち、よくつるんでるでしょ? たまには、ほかのひととも親睦を深めたくてさぁ」

「それもそうか」


 遊々子の言い分に、俺は納得を得る。


 遊々子がいてくれたほうが楽しいだろうけど、こっちの都合で縛るのは忍びないしな。ここは、遊々子の意志を尊重すべきだろう。


 そう判断した俺は、遊々子に頷きを返した。


「わかった。気にしないで行ってきてくれ」

「助かるよぉ。紀樹は、望愛ちゃんとふたりで楽しんでね。望愛ちゃんとふたりで」


「それじゃあねぇ」とヒラヒラ手を振って、遊々子が犬走さんたちのもとへ歩いていく。


 遊々子を見送りつつ、俺は去り際の言葉に引っかかりを感じていた。


 遊々子のやつ、『望愛ちゃんとふたりで』って部分をやたら強調していたような……なんでだろう?


 不思議に思い眉をひそめるなか、望愛がジャージの裾をクイクイと引っぱってきた。


 拗ねたような、急かすような、しょんぼりしたような――とにかく不満そうな目で、望愛は俺を見上げている。


「ノリくん、早くご飯にしようよ」


 どうやら望愛は、ご飯が待ち遠しいようだ。子供っぽい仕草が愛らしくて、ついつい頬が緩んでしまう。


 疑問はひとまず置いておくか。これ以上、望愛にお預けするのは可哀想だし。


 苦笑して、俺は応じる。


「悪い悪い。じゃあ、まずはシートを敷くか」

「うん!」


 雲間から日差しが覗くように、不満そうだった望愛の顔に笑みが咲いた。

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