偶発的・押してダメなら引いてみろ――1
四月の最終火曜は遠足の日だ。
目的地は、山の麓にある自然公園。はじめはバスで移動し、最後の五キロほどを歩くことになる。
登校後、西岡の一年生は校庭に集合し、点呼を取っていた。
全員揃っているのを確認してから、出席番号順にバスに乗り込んでいく。
「隣、いい?」
前方右側の座席に座った俺に、番号がひとつ下の女子生徒が尋ねてきた。
体型は中肉中背。
短く整えられた髪はグレーに染められ、赤いメッシュが入っている。
コーヒー色の目は切れ長。いかにもクールそうなすまし顔。
両耳にシルバーのピアスを三つずつつけ、首には黒いチョーカー、両手の爪には黒いマニキュアが塗られている。
こういう風貌はパンクギャルと呼ぶのだろうか? ジャージ姿なところがチグハグに感じる。
彼女は八重樫寧音。一年一組ギャルグループのひとりだ。
「ああ。大丈夫」
「ん」
俺が応じると、素っ気ない返事とともに八重樫さんが隣に座り、スマホを取り出して弄りだした。
八重樫さんには失礼だけど、できることなら望愛と隣同士になりたかった。遠足みたいなイベントごとは、一緒に楽しみたいから。
しかし、望愛と隣同士になるには、八重樫さん&望愛の隣に座っているひとに断りを入れなければならない。こっちの都合で振り回すのは申し訳ないだろう。
加えて、この遠足は、生徒同士のコミュニケーションが目的でもある。望愛がクラスメイトと打ち解けるキッカケになるかもしれないのだ。
俺のわがままで、望愛のチャンスを潰すわけにはいかない。ここは我慢だな。
腕組みをして、自分に言い聞かせる。
「ネオたーん、こっち来なよー!」
そんななか、弾けるように元気な声が後ろから聞こえてきた。
振り返ってみると、金髪ツインテールのギャルがブンブンと手を振っている。
背丈は望愛より低く、おそらく一五〇センチにも満たない。
丸く大きな瞳は、カラコンでもつけているのか緑色。
星形のパーツがあしらわれたつけ爪。両耳には緑のピアス。
人懐っこい笑顔が印象的な彼女は、犬走藍菜。八重樫さんと同じくギャルグループに属している。
犬走さんはこちらに向けて――正確には、俺の隣にいる八重樫さんに向けて、手を振っていた。『ネオたん』とは、八重樫さんのあだ名なのだろう。
推測していると、八重樫さんが訊いてきた。
「柳父。藍菜の隣に移動したいんだけど、いい?」
「犬走さんの隣のひとがいいなら、俺は構わないぞ」
「そ」
八重樫さんが頷き、スマホをしまって立ち上がる。
八重樫さんが犬走さんのもとに行き――
「あ、ノリくん」
「え?」
代わりにやって来たのは、望愛だった。
俺は目を丸くする。
「驚いたな。まさか、来るのが望愛だとは思わなかった」
「奇遇だよね。あたしもビックリしちゃった」
クスクスと笑いながら、望愛が俺の隣に座る。
偶然にしてはできすぎだけど、ラッキーだ。ちょうど、望愛と隣同士になりたいと思っていたところだし。
思わぬ幸運に感謝していると、望愛が鼻歌を奏でだした。
「ご機嫌だな」
「そりゃそうだよ。ノリくんと隣同士になれたんだもん」
「……そうか」
尋ねる俺に、日だまりに咲くタンポポみたいに、朗らかな笑みを返す望愛。
窓から景色を眺めるフリをして、俺はそっぽを向いた。
赤くなっているだろう顔を、望愛に見られたくなかったから。




