幕間:望愛、遊々子と密談する
一応は謝ったけど、あれだけで足りるとは思えない。恋敵だと勘違いして、勝手に天下井さんを敵視してしまったのだから。
そんなわけで放課後、あたしは天下井さんに謝りにいった。
ビクビクオドオドしながら謝ろうとしていると、
「内木さん、予定空いてる? いまからファミレスに行かない?」
と天下井さんが誘ってきた。
突然のお誘いにビックリしたし、ほとんど交流がない天下井さんとのお茶なんて、緊張しかない。
けれど、あたしは無礼を働いている身。そのうえにお誘いを断るなんて、図々しいにもほどがある。
だからあたしは、赤べこみたいにコクコク頷くことしかできなかった。
ファミレスにやって来たあたしと天下井さんは、ボックス席で向かい合う。
うう……き、気まずいよぉ……。
端から見たあたしは陽気なギャルだろうけど、それは演技に過ぎない。根っこの部分は相変わらず奥手だ。相手がノリくんでなければ、いまだにコミュ障を発動してしまう。
天下井さんとどう接すればいいかわからず、ドリンクバーからとってきたアイスティーを、手持ち無沙汰にちびちびと口にする。
そんなあたしに気を遣ってか、天下井さんのほうから話しかけてきた。
「急に誘ってごめんねぇ、内木さん」
「い、いえ、そんな……あ、謝るのは、あたしのほうっていうか……」
「ボクを威嚇しちゃったこと? それなら、全然気にしてないよぉ?」
「で、でも、すごく、失礼なことだし……」
「真面目だねぇ」
緊張と罪悪感で縮こまるあたしに、天下井さんが苦笑する。
「だったらさ? ひとつ、ボクの質問に答えてくれる?」
「質問、ですか?」
「そ。それでチャラってことにしようよ」
「わ、わかりました。どんな質問ですか?」
戸惑いながらも応じると、穏やかな声色で天下井さんが訊いてきた。
「内木さんは、紀樹のこと、好き?」
「っ!」
核心に触れられて、あたしは息をのむ。
正直に答えるのは恥ずかしいし、ドキドキしてたまらない。けれど、天下井さんが質問してきたのは、あたしを罪悪感から解放するためでもある。彼女の心配りを無下にするわけにはいかない。
顔から火が出そうな思いをしながらも、あたしは首を縦に振った。
「は、はい。あたしは、ノリくんが好きです」
「うん。そっか」
天下井さんが満足げに頷く。
コーヒーをすすり、ほぅ、と息をつき、改めて天下井さんが口を開いた。
「可愛い女の子が好きなんだよねぇ、ボク」
「は、はい?」
なんの脈絡もないカミングアウト。天下井さんの意図がわからず、あたしはポカンとしてしまう。
あたしの反応を気にするふうもなく、天下井さんは語り続ける。
「マンガとかアニメとかに可愛い女の子が登場したら、それだけでテンションぶち上がるし、ゲームでも美少女キャラばっかり選んじゃう」
「は、はあ」
「可愛い女の子の可愛い姿を拝むのは至福だよ。生き甲斐と言ってもいい」
「そ、そうなんですか」
滔々と語る天下井さんに、どんなリアクションを返すのが正解かわからない。
無難な相槌を打っていると、天下井さんが話を振ってきた。
「内木さんは、女の子が一番可愛いのって、どんなときだと思う?」
「えっと……よ、喜んでるとき、とか?」
「ボクはねぇ? 恋をしているとき。大好きなひとと過ごしているときだと思うんだ」
持論を展開して、天下井さんが笑いかけてくる。
「だからボクに、内木さんの恋路を手伝わせてもらえないかな?」
「えっ!?」
思いがけない提案に、あたしは目を丸くした。
「い、いいんですか!?」
「もちろんさぁ。紀樹との恋が成就したら、内木さんの可愛いところをたっぷり眺められるでしょ? ボクにとって、最高の見返りだよ」
人差し指をぴっと立てて、天下井さんがウインクしてくる。
「内木さんは協力者を手に入れられる。ボクは、内木さんと紀樹のイチャつきを拝むことができる。Win-Winだと思わない?」
予想外だけど、渡りに船だ。天下井さんが味方になってくれれば、ノリくんと付き合える可能性が高まるのだから。
願ってもない提案に、あたしは頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします!」
「うん。こちらこそ、よろしくねぇ」
柔らかく目を細めて、天下井さんがヒラヒラと手を振った。




