早とちり――8
ダイニングにて、俺は英一さんに先ほどの状況について説明していた。正直に打ち明けるわけにはいかないので、事実を偽ってだが。
「ふむふむ。対戦ゲームを遊んでいる最中、望愛がバランスを崩した、と」
「は、はい」
「倒れそうになった望愛を庇った結果、あのような体勢になってしまったと、そういうわけだね?」
「う、うん。あたし、ゲームに熱中すると体が動いちゃうから」
「なるほど……そうとは知らず、疑ってすまなかった」
かなり無茶な言い訳だと思ったが、望愛が口裏を合わせてくれたためか、英一さんは納得してくれた。
ピンチを乗り切った俺と望愛は、英一さんに気づかれないように胸を撫で下ろす。
申し訳なさそうに眉を寝かせて、英一さんが頭を下げてきた。
「僕はてっきり、きみが望愛といかがわしい行為に及んでいるのかと……失礼な勘違いだったね」
「い、いかがわしいことなんてしませんよー」
「そ、そうそう。あたしたち、そんなことしないよー」
実際は、ほぼほぼ英一さんの想像通りなので、俺と望愛は視線を泳がせる。気まずさと罪悪感に頬をビンタされている気分だ。
「というか、謝ることなんてないですよ。あの場面を見たら、俺が望愛に手を出していると勘違いしてもしかたないです。英一さんにとって望愛は大切な娘さんなんですから、俺を不審がるのは当然ですよ」
「そういうわけにはいかないよ。僕は自分が許せない」
俺の気遣いに対し、英一さんが首を横に振った。
「柳父紀樹くん。望愛の恩人であるきみを疑ってしまったのだから」
「俺のことを覚えていたんですか?」
俺は目を丸くする。
俺と望愛が出会ったのは八年前で、過ごした時間は半年と短い。英一さんと話したことはほとんどないので、俺のことなんて忘れていると思っていたのだ。
英一さんが首肯した。
「もちろんだとも。きみほど望愛によくしてくれた子は、あとにも先にもいないのだから」
感謝とばつの悪さがない交ぜになったような、自嘲めいた笑みを浮かべる英一さん。
「男手一つで育てているからしかたないとはいえ、自分の転勤で娘たちを振り回していることを、むかしから心苦しく感じていたんだ。特に望愛は、繊細な子だからね」
噛みしめるような溜息をはさみ、英一さんが続ける。
「以前もいまも、きみと過ごすようになってから、望愛は見違えるほどイキイキしている。望愛にとって、きみの存在はとても大きいのだろう」
神妙な面持ちで、英一さんが改めて頭を下げてきた。
「きみになら望愛を任せられる。よければ、これからも仲良くしてもらえないだろうか?」
「もちろんです」
俺は即答した。考えるまでもない。答えなんて、端から決まっているのだから。
顔を上げた英一さんに、笑ってみせる。
「こちらからお願いしたいくらいですよ。望愛は大切なひとですから」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
英一さんが息をついた。肩の荷が下りたような、清々しい顔で。
「えへ、えへへへ……」
そんな俺と英一さんのやり取りを眺めていた望愛が、不意に笑いだした。望愛の顔は、波間を漂うクラゲみたいにゆるゆるふにゃふにゃだ。
「なに笑ってるんだ?」
「だって、いまのやり取り、親御さんへの挨拶そのものだったからさー」
「ときどき望愛は、よくわからないことを口にするよな」
要領を得ない回答に、俺は首を傾げる。
英一さんが、俺と望愛に温かい目を向けていた。




