早とちり――5
ふたりで部屋の片付けをして、望愛が用意してくれたお菓子とジュースで一服。思ったより片付けに手間取った影響で、休憩を終える頃には五時を過ぎていた。
「遅い時間になっちゃったけど、まだ遊べる?」
「大丈夫だ」
気配りと名残惜しさが半々になったような顔つきで尋ねてくる望愛に、頷きとともに答えを返す。
「ここから俺の家までは近い。それに、今日、母さんは仕事部屋に泊まるらしいから、急いで帰る必要もないしな」
「そっか」
ホッと安堵の息をついた望愛が、「じゃあさ?」と、テレビ台の棚に手を伸ばす。取り出されたのは、格闘ゲームのパッケージだ。
「これ、一緒にやらない?」
「お、スク6か」
「知ってるの? もしかして、プレイしたことある?」
「ああ。遊々子に誘われて、よく対戦してるんだ」
「……ふーん」
事情を伝えると、望愛の声のトーンが露骨に下がった。
「じゃあ、あたしとも対戦しようよ? コテンパンにしてあげる」
「急に好戦的」
望愛が眉を立てて、鼻息を荒らげる。その眼光は鋭く、見るからに闘志むき出しだ。
望愛って、こんなに気性が激しかったっけ? むしろ、真逆だと思うんだが……まあ、格ゲーはエキサイトしたほうが楽しいか。
ひとまず、望愛の変貌に対する疑問は置いておいて、俺はゲームを楽しむことにした。
ニッと挑戦的に笑ってみせる。
「よし! その勝負、受けて立つ!」
「自信たっぷりだね? あたし、結構強いよ?」
「いや、やるからには勝たせてもらうぞ」
「あたしも負けるつもりはないよ? 万が一ノリくんが勝てたら、ご褒美あげる」
「ご褒美?」
首を傾げる俺に向けて、小悪魔みたいに口端を上げる望愛。
「もしノリくんが勝てたら……エ、エッチなこと、させてあげる」
「それなら、わざとでも負けるが?」
「なんでぇ!?」
即座に手のひらを返すと、望愛が愕然とした。眉を下げ、目をまん丸に見開く姿には、『ガーン』の擬音がよく似合う。
「なんでもなにも、そういう条件なら当然だろ」
「男の子は女の子にエッチなことをしたいんじゃないの!?」
「主語がでかいし、勘違いも甚だしいわ!」
あまりにもズレた望愛の発言に、頭痛がしそうだ。
ツッコミを入れた俺は、深い溜息をつく。
「常々言ってるが、俺は望愛を更生させたいんだ。そんな俺が、エッチなことをするわけがないだろ」
「う、ううぅ……っ」
俺の正論に望愛がたじろぎ――
「じゃ、じゃあ、『あたしが勝ったらノリくんはエッチなことをしなくちゃいけない』ってルールに変更!」
「ご褒美が罰ゲームに化けたんだが!?」
それでも食い下がって、メチャクチャなことを言い出した。
「そんな不健全なこと、できるわけないだろ!」
「やりたくないなら負けなければいいじゃん! 『やるからには勝たせてもらう』って言ってたでしょ!」
「たしかに言ったけど……」
「とにかく勝負するの! 逃がさないもん!」
俺の意見に一切耳を貸さず、無理矢理押し通そうとする望愛。肩を怒らせて、フグみたいに頬を膨らませる様子は、きかん坊そのものだ。
完全に頭に血が上ってる。これは説得できそうにないな。
望愛を止めるのは無理だと悟り、頭をガシガシと掻いて、渋々ながらも頷く。
「わかった。そのルールで勝負しよう」
「言質とったからね! 『やっぱりなし』なんて言わせないからね!」
「ああ。勝つのは俺だけどな」
こうして、絶対に負けられない戦いが幕を開けた。




