早とちり――4
望愛が住んでいるマンションは、俺の家から徒歩五分くらいの場所にあった。結構近場に住んでいて、ビックリだ。
「お菓子とか持ってくるから、くつろいでてね」
「ああ、サンキュー」
招き入れた俺を自分の部屋に案内して、望愛がおもてなしの準備に向かう。
「望愛の部屋に遊びに来たの、ひさしぶりだな」
残された俺は、感慨深さと懐かしさを感じながら、部屋のなかを見渡した。
カーペット、ソファ、カーテン、ベッドシーツ、クッションなど、家具の多くが暖色系で、柔らかい印象を受ける。
本棚には、ファッション雑誌とともにアニメのBDBOXやマンガが敷き詰められていた。意外にオタクなのかもしれない。
化粧台にはコスメが並び、その隣には大きな姿見。ギャルらしく、ファッションにこだわっているのだろう。
むかし遊びに来たときより、ずっと女性らしい部屋になっている。漂ってくる甘い匂いも相まって、ついドキドキしてしまった。
「……遊々子の部屋に行っても、こんな気分にはならないんだがな」
なんだか気恥ずかしくて、誰に聞かせるでもなく呟く。
カタン
「ん?」
その折り、小さな物音が聞こえた。
音がしたほうを見やると、テレビの奥にあるクローゼットが目に留まった。あそこから聞こえてきたのだろうか?
そう推察していると――
ゴト……ガタガタ、ゴトン!
先ほどよりも激しい音がして、俺は目を白黒させる。
「な、なんだ!?」
何事かと思った俺は、クローゼットに駆け寄って扉を開けた。
ドサドサドサ!
「うおぁ!?」
途端、様々なものが雪崩みたいにこぼれ出てくる。
呆気にとられながら、足元に視線を落とした。
フローリングの床に散乱しているのは、お菓子の袋、携帯ゲーム機、ゲームソフトのパッケージ、ぬいぐるみ、衣類などだ。
それらを眺め、ピンと来た。
「俺を招こうと決めてから、急いで片付けたんだろうなあ」
おそらく、望愛は片付けが苦手なタイプなのだ。けれど、散らかった部屋はみっともなくて見せられない。俺がお邪魔しているあいだだけでも隠せばいいと考えて、片っ端からクローゼットに放り込んだのだろう。
「ああっ!?」
その場面を思い浮かべて苦笑いしていると、背後で望愛の声が上がった。
振り返ると、ジュースやお菓子を載せたトレイを持ってきた望愛が、こちらを見て血相を変えている。
そこで、はたと気づいた。
物音に驚いて咄嗟にクローゼットを開けてしまったけど、この状況、マズくないか?
女の子の部屋で勝手にクローゼットを開ける。字面だけでもいかがわしい。少なくとも、いい気はされないだろう。俺が望愛の立場なら、間違いなくドン引きだ。
こ、これは嫌われてもおかしくない! しっかり説明しなければ!
「わ、悪い、望愛。実は、クローゼットから物音がして――」
「ち、違うんだよ!? いつもはちゃんと片付けてるからね!?」
「へ?」
慌てて弁明しようとしたところ、逆に望愛が言い訳してきた。わたわたと忙しなく手を振って、俺以上に慌てた様子だ。
思わぬ展開にポカンとするなか、望愛が早口で続ける。
「ただ、今回は時間がなくて、ひとまずクローゼットにしまうことにしたというか……つまり、たまたまなの! 普段はキチンとしてるの!」
どうやら望愛は、クローゼットを開けられたことよりも、俺にだらしないと思われていないかのほうが、気になっているらしい。
嫌われてはいないみたいだ……よかった。
ホッと胸を撫で下ろす。
安堵感に包まれるなか、アタフタと必死に言い訳する望愛の姿が微笑ましくて、つい笑みを漏らしてしまった。
「う、嘘じゃないもん! あたし、ちゃんとしてるもん!」
「そうだな。ちゃんとしてるよな」
「本当なんだからね!」
俺の笑みを『信じてないリアクション』 と勘違いしたのか、望愛が一層ムキになる。
「わかったわかった」と望愛をなだめすかしてから、散らかった床を指さした。
「とりあえず、片付けるか。このままじゃ遊べないし」
「そ、そうだね」
言い争っている場合じゃないと判断したのか、望愛が素直に頷く。
片付けをはじめようとしゃがんで――俺は硬直した。
散乱した品々のなかに、やけに薄い本がある。その表紙に描かれているのは、衣服をはだけさせた女性のイラスト。
見過ごせないのはそれだけではない。薄い本の隣に転がっている、電動マッサージ器もそうだ。余程使い込まれているのか、外装が少し傷んでいる。
俺の様子を不思議に思ったのか、望愛が尋ねてきた。
「ノリくん? どうして黙り込んで……みゃあっ!?」
こちらをのぞき込んだ望愛が、薄い本と電動マッサージ器を見つけて、毛を逆立てる猫みたいに跳ね上がった。
「の、望愛? この薄い本って、エロいやつじゃ……」
「ここここれは、その、えっと……ギャ、ギャルはみんな持ってるから! エッチな本くらい、普通に読んでるから!」
「なら、この電動マッサージ器は?」
「そ、それは、必需品だから持ってるの! あたし、肩こりひどいから!」
「ま、まあ、肩は凝るだろうな」
「だから、本来の用途で使ってるの! いかがわしいことには、絶対絶対使ってないもん!」
俺の質問に答える望愛は、トマトと見紛うほど真っ赤な顔をしている。
ギャルがみんなエロ本を読んでいるなんて暴論だし、必死に否定していることから察するに、電動マッサージ器はいかがわしい用途で使われているのだろう。
ただ、そのことを指摘したら、きっと望愛の羞恥心は限界を迎える。
「そ、そうだな。望愛の言うとおりだ」
だから俺は、大人の対応をすることにした。




