早とちり――2
ゲームをして過ごした俺と遊々子は、昼時にカレーを食べた。
昼食のあと、またしばらくゲームをしてから、俺は帰宅することにした。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
「あ、ちょっと待った」
立ち上がった俺を引き留めて、遊々子が部屋を出ていく。
戻ってきた遊々子の手には、紙袋が提げられていた。
「はい、お土産」
持ってきた紙袋を俺に差し出してくる遊々子。紙袋は、俺たちの地元で有名な洋菓子店のものだ。どうやら、わざわざ用意してくれたらしい。
食事を作りにきたとき、遊々子は毎回お土産を手渡してくれる。お礼のつもりなのだろう。
「いつも悪いな」
「いいってことさ」
「けど、無理に気を遣わなくてもいいんだぞ? 別に大層なことをしてるわけじゃないし、俺と遊々子の仲なんだから」
「ボクにとっては大層なことなんだよ。それに、親しき仲にも礼儀ありっていうだろぉ? 無理強いはしないけどさ? 紀樹がよければもらってくれよ」
遠慮する俺に、遊々子がウインクしてみせた。
奔放そうに見えるけど、意外と律儀なんだよなあ、遊々子は。こういう気遣いをしてくるから、憎めないんだよ。
苦笑して、遊々子から紙袋を受け取る。
「なら、ありがたくもらっていくわ」
「よしよし、好感度調整完了」
「余計な一言で台無しだよ」
前言撤回。やっぱり、こいつは小憎たらしいやつだ。
俺がジト目になるなか、遊々子は相変わらず楽しそうに笑っていた。
「あれ? ノリくん?」
お土産を手に遊々子の部屋をあとにした俺は、マンションのエントランスを出たところで声をかけられた。
鈴の音みたいなソプラノボイス。見なくてもわかる。声をかけてきたのは望愛だろう。
振り向くと、予想通り、小走りでこちらにやって来る望愛がいた。浮かべられたニコニコ笑顔は、眺めているだけで癒やされる。
頬を緩め、片手を上げた。
「奇遇だな、望愛」
「うん! ノリくんに会えてラッキーだよ♪」
「……遊々子も望愛も、少しは恥ずかしがれっての」
本日二人目・二度目の不意打ちに、顔を背けながらボソボソとぼやく。俺の態度を不思議がってか、望愛はキョトンとしていた。
望愛は、白いブラウスにブラウンのロング丈キャミワンピースを合わせている。制服は大胆に着崩しているが、私服は意外と露出が控えめのようだ。
望愛の両手には、いくつもの紙袋が提げられていた。
「買い物にでも行ってきたのか?」
「そうだよ。お洋服とか下着とかを買ってきたの」
望愛が紙袋を掲げ、俺に見せてくる。
「過激なデザインの下着もあるから……た、楽しみにしててね?」
「しないが?」
頬を赤らめながらとんでもない発言をする望愛に、半眼でツッコむ。
望愛のやつ、また誘惑してくる気だな? 勘弁してくれよ、まったく。
これから高確率で面倒事が起こるだろうことに頭を悩ませていると、今度は望愛が尋ねてきた。
「ノリくんは誰かに会ってきたの?」
俺が持っているお土産と、俺が出てきたマンションを、望愛は交互に見やっている。このふたつの情報から、誰かの部屋を訪れていたと推測したのだろう。
頷いて、答える。
「遊々子の部屋に行ってきたんだ」
「遊々子って……天下井さんのこと?」
望愛が目をパチクリさせた。
「ああ」と相槌を打ち、知らせる。
「昼飯を作ってきたんだよ。このお土産はお礼にもらったんだ」
「え?」
途端、望愛の表情が強張った。
「お、お昼ご飯? ノリくんの手作り?」
「おう。あいつ、俺の料理が気に入ってるみたいで、ときどき頼んでくるんだよ」
「……ふーん」
事情を伝えると、望愛が唇を尖らせた。なぜかはわからないが、機嫌を損ねてしまったみたいだ。
不可解な望愛の反応に、俺は首を捻る。
「どうした? なんか不機嫌そうだけど」
「……別に」
頬を膨らませて、ぷいっとそっぽを向く望愛。否定しているが、それが嘘なのは明白だ。発言と態度が食い違っているのだから。
不機嫌になった理由を訊こうとしたが――
「あたし急いでるから、またね」
「お、おう」
それより先に、素っ気ない挨拶を残して望愛は足早に立ち去ってしまった。『取り付く島もない』とは、いまの望愛みたいな態度を示すのだろう。
「……なにが気に食わなかったんだ?」
腕組みして考えてみるが、一向に答えは出なかった。




