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第二十六話 脅威はここに

 再び遺跡の内部に閉じ込められた俺達は、とりあえず大広間の中を手分けして調べて回ることにした。

 入り口から向かって左側の壁付近に、何かを操作するためのパネルが嵌め込まれた台座があった。操作パネルの画面は暗いままで何も表示されていない。


「触ってみてもいいかな?」

「どういう機構か分からないから、無暗にいじらないほうがいいと思うぞ」

「そっか、確かにそうだね」

 

 興味深々のタチアナを、俺はやんわりと押し止めた。

 遺跡や魔道具の研究者達がいればまだしも、俺達はずぶの素人だ。これ以上、厄介事が起きるのは勘弁して欲しい。

 ここは、君子危うきに近寄らずが吉だろう。


 広間の四隅には、不思議な光を放つクリスタルが浮かんでいる。長さは縦一メートル程で、ゆっくりと右回りに回転を続けている。

 何か意味のあるものだろうか? よく分からない。

 もしかしたら、単なる照明代わりなのかもしれない。

 

 四方を囲む壁はかなり頑強な造りになっていた。

 試しにシュルツが低階位の魔術を放ってみたが、石壁の表面が軽く焼け焦げたのみで、ほぼ無傷だった。この強度では、とてもではないが破壊できそうにない。


「ねぇ、この魔導アーマーを起動させてみたらどう? 確かお腹の部分から強い破壊光線みたいなのが出るんじゃなかったっけ?」

「それは、私も聞いたことがあるな。魔導アーマーは確か魔力を動力源にしているはずだ。試してみる価値はあるかもしれない」


 シュルツが目顔だけで俺の意向を伺ってくる。

 いつの間にか、判断役が俺に回ってきているのは何故だろう。


「……」


 眼前にずらりと並ぶ魔導アーマーを俺は見上げた。

 危険な魔導兵器を使うのは正直ぞっとしないが、興味がないと言えば噓になる。


「俺も反対はしない」


 やや卑怯な言い草かもしれないが、率先して賛成する気にはなれなかった。


「心配はいらない。あくまでここから脱出するために利用するだけだ。先刻の約束は必ず守ると誓おう」


 そう言って、シュルツが手近にあった魔導アーマーのコクピットに乗り込む。


「このグリップを握ればいいのか?」


 足元から伸びた二本の棒が、操作用のレバーのようだ。

 動力を駆動させるため、目を閉じたシュルツが体内で魔力を熾(おこ)す。なるほど正規の魔導騎士だけあって、彼の魔力は淀みなく体内を駆け巡っている。


「……!」


 神経を集中させシュルツが、<操作> の能力で両手から操作レバーへと魔力を流していく。

 刹那――魔導アーマーの後部に据え付けられた魔力反応炉が光り輝き、鈍い駆動音を響かせ始めた。


「動いた!」


 手を叩いて歓声を上げるタチアナ。


「クッ……!? 魔力の <操作> がかなり難しいぞ、これは」


 苦悶するようにシュルツが表情を歪める。

 何とか操作用のレバーをひねり、右脚を動かそうとしたが、そこで魔導アーマーが突然動きを停止した。


 ブオオオォォンンッっ……


 濁った空気が抜けるような音が鳴り、同時に駆動音もパタリと止む。

 魔力反応炉からも光が失われてしまった。


「ダメだ。この魔導アーマーを操るには、相当な魔力の <操作> の技能が必要のようだ。しかも、私の魔力では十分な動力が得られそうにない」


 無念そうに呻いて、シュルツがコクピットから降りる。


「なら、オグマが乗ってみたら?」

「俺が?」

「うん。だって、オグマは魔力の <操作> と <錬成> は得意でしょ?」

「いや、得意と言うほどでは……」


 確かにまったく才能のない <発現> に比べれば得意かもしれないが、魔導騎士であるシュルツでも無理だったことが、俺にできるとは思えない。


「そうだな。お前ならできるかもしれない」


 何故か、シュルツまでもが真剣な表情と声で言ってくる。

 断るに断れない空気に背を押される形で、俺は渋々ながら胸部のコクピットに乗り込んだ。そっと操作レバーを握る。

 体内で魔力を熾(おこ)すと、それを <錬成> によって深く静かに練っていく。

 イメージは魔力を圧縮して凝縮していくカタチ。集中を切らさずに、今度は <錬成> した魔力を <操作> でグリップから魔導アーマーの機体へと伝播させる。


 ググオォォオオォォォッォンンンンんッっ!!!


 唸るような重低音が響き渡り、再び魔力反応炉が動き始めた。

 力強い駆動音。

 俺はレバーを慎重に操作して、魔導アーマーを動かす。

 想像していたよりも、その動作はずっと滑らかだ。


「凄い! めちゃくちゃ上手いじゃん、オグマ!」

「悔しいが……確かに、素晴らしい」


 脱帽したように感嘆の声を上げるタチアナとシュルツに、俺は内心で苦笑を浮かべる。

 遠い昔、俺が剣術大会で優勝した時も、両親はあんな眩しい笑顔を浮かべてくれていた。久しく味わったことのない面映ゆい感覚は、思いのほか悪くはなかった。


 俺はゆっくりと魔導アーマーを操作して、向きを調整する。魔導アーマーの中央部位には、強力な破壊光線を出力する機構がある。

 俺の魔力でそれが使いこなせるか分からないが、試してみる価値はあるだろう。


「ばーんっ! と、一発撃っちゃってよ!」


 タチアナはこんなときでも気楽だ。

 悪い意味でなく、彼女の明るさは本当に救いになる。


「うむ。壁に穴が開けばそこから脱出しよう。無理なら他の手を考えればいい」


 シュルツも賛成のようだ。


「よし」


 俺は小さく頷くと、再び意識を集中させて魔力を <操作> する。

 誰かに教わったわけではないが、身体と魔導アーマーが一体になるようにイメージする。機体へと流し込む魔力を、中央部分に収束させていく。

 <操作> と同時に <錬成> を平行して行い、高密度の魔力を熾(おこ)し続ける。

 

 <発現> の能力が皆無なゆえ、魔術が使えない俺にとっては、所持する膨大な魔力はただの宝の持ち腐れだった。それが、こんな危急の場で役に立つとは、世の中とは分からないものだ。


 魔導アーマーの中心、鏡面のような胸部が輝き始める。

 周囲の空気が渦を巻きながら吸い込まれていく。蓄積した魔力が、極限まで濃縮され今にも暴発しそうだった。


「二人とも、念のために後ろに下がっていてくれ」

「……うん」

「分かった」


 入口の扉辺りまでタチアナとシュルツが退避したのを確認すると、俺は眼前に視線を戻す。

 後は、凝縮した魔力を解き放つだけだ。

 頼む、上手くいってくれ。

 祈るように俺は叫んだ。


「発射ッ!」


 瞬間――爆発的な光が迸り、全身に圧倒的な重力が圧(の)し掛かった。

 後方へ重心が傾き、息ができなくなる。操作レバーを強く握り締め、襲い掛かる圧力に歯を食いしばって耐えた。


 魔力によって生み出された蒼い破壊光線が、空間を鮮烈に切り裂き、奔る。

 一直線に駆け抜けたそれは、聳える石壁に直撃した瞬間、けたたましい爆音を響かせて弾け飛ぶ。無音の衝撃波が広間に波紋を広げ、爆風をばら撒いた。


「凄まじい……威力だ」

「ほんと、こんなのが戦争で使われたら、きっとたくさんの人が死んじゃうね」


 ポツリと呟くタチアナの声を悲しげだった。

 爆煙が晴れた後、頑強な壁には破壊光線によって穿たれた丸い穴ができていた。ちょうど、人が一人何とか通れそうな大きさだ。

 どうやら、上手くいったらしい。


 俺は魔導アーマーを元の位置に戻すと、穴の開いた壁に歩み寄った。

 近付くにつれて、微かな風が肌に触れる。外だ。


「やったね。オグマ。さすがだよ」


 タチアナとシュルツが遅れてやって来た。

 穴を通って外へ出ると、辺りは真っ暗になっていた。東の空で三日月が煌々と輝いている。

 正確な時間は分からないが、月の位置と夜気の気配から真夜中に近い時分だと検討をつける。脱出した先は、ちょうど遺跡の入り口の真裏辺りのようだった。


 背後を振り返る。

 穴の長さは五メートル程あり、外からでは内部の様子を窺い知ることはできない。しかし、これでいつでも出入りが可能になったわけだ。

 穴を拡張すれば、魔導アーマーを搬出することも可能だろう。

 そんな俺の危惧を察したようにシュルツが口を開いた。


「心配はしなくていい。この場所は、後で私が責任をもって封鎖する。アイザック様にも情報は伏せておくと約束しよう」


 シュルツの言葉に嘘はないような気がした。

 確信はないが、今はどのみち彼を信じるしかない。横目でちらりと見ると、タチアナも同じ思いのようで何も言わなかった。


「命の恩人に対して、嘘偽りは言わない。騎士の名に懸けて誓う。お前たちの願いに反するようなことは絶対しない」

「分かった。あなたを信じよう」


 それでも、遺跡の発掘が継続されれば、いずれアイザックがあの魔導アーマーを発見する日が来るだろう。  

 その時、この国はどうなってしまうのだろう。オリヴィアの顔が脳裏に浮かんだ。

 言い知れぬ不安を煽るように、夜空には黒い雲の群れが重く垂れ込めていた。

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