第100話 名乗った名前
「アレクシス・エヴァンローズ……?」
リゼリアは思わず聞き返した。
目の前の侍従は、深く頷く。
「はい。確かに、そう名乗りました」
ノアが静かに尋ねる。
「顔は?」
「……はっきりとは見ていません。黒い外套で顔の半分を隠していました」
「ならば、その男が本当にアレクシス本人だったとは限らないな」
レオンが口を挟む。
「そもそも、記録に残るアレクシスが今も生きているとは考えにくい」
「そうですね」
リゼリアは侍従が持っている銀のペンダントを見る。
自分が持つものと、ほとんど同じだった。
「では……なぜ、その名前を?」
「分かりません。ただ、男は私にこう言いました」
侍従は震える声で続けた。
「『エレノアの血を継ぐ者に、これを渡せ』と」
リゼリアの胸がざわつく。
「エレノアの血を……?」
「はい」
ノアがリゼリアを見る。
その目だけで、彼女には分かった。
――自分たちが探している秘密に、また一歩近づいた。
「その男は、どこへ行った?」
ノアが尋ねる。
「西側の回廊へ向かいました」
「レオン兄上」
「ああ。追うぞ」
二人が動き出す。
リゼリアも後を追おうとした、その時。
「リゼリア」
ノアが振り返った。
「俺のそばを離れるな」
「……分かってる」
リゼリアは頷いた。
そして三人は、黒い外套の男を追って西側の回廊へ向かった。
そこには――
窓が一つ、開いたままになっていた。




