第九十九話 宝物庫
王家の宝物庫へ向かうと、入口の扉は大きく開いていた。
騎士たちが周囲を警戒している。
「中に入った者は?」
国王が尋ねる。
「まだ確認できておりません。」
ノアが先に中へ入る。
「気をつけて。」
リゼリアも続く。
宝物庫の中は、いくつもの棚が荒らされていた。
「何かを探した跡ね。」
リゼリアが呟く。
ノアが頷く。
「ああ。でも、盗まれたものは少ない。」
国王が奥へ進む。
「……ここだ。」
壁際に、一つだけ空になった棚があった。
「ここに何が?」
「エレノアの記録だ。」
国王が答える。
リゼリアは息を呑む。
「盗まれた?」
「いや。」
国王は首を振る。
「記録そのものは残っている。」
棚の奥から、一冊の古い本を取り出す。
「では、何を探したんですか?」
ノアが本を確認する。
ページはほとんど無事だった。
ただ、一箇所だけ。
「……ここも破られている。」
エヴァンローズ家の記録と同じだった。
リゼリアが近づく。
「何が書いてあったの?」
「分からない。」
国王が答える。
「だが、破られたページの前に、一つだけ名前が残っている。」
ノアが指で示す。
そこには――。
『アレクシス』
と書かれていた。
リゼリアは黙り込む。
「また……。」
ノアが本を閉じる。
「誰かがアレクシスに関する記録だけを消している。」
「つまり、犯人はアレクシスのことを知っている。」
レオンが言う。
その時。
宝物庫の奥から、かすかな音がした。
カタン。
「誰だ!」
騎士たちが一斉に振り返る。
棚の陰から、一人の侍従が現れた。
「お待ちください!」
「私は何もしておりません!」
騎士が取り押さえる。
「その者は?」
国王が尋ねる。
別の騎士が答えた。
「王宮で長く働いている侍従です。」
侍従は震えている。
「違います……私は何も……。」
リゼリアが彼を見る。
すると、侍従の胸元から何かが落ちた。
カラン。
小さな銀色のペンダント。
リゼリアの持っているものと、同じ紋章が刻まれている。
「それ……。」
リゼリアが近づく。
侍従の顔色が変わった。
「どこで手に入れた?」
ノアが問いかける。
「……。」
「答えろ。」
侍従は俯いた。
そして、小さな声で言った。
「私は……預かっただけです。」
「誰から?」
「名前は知りません。」
ノアが目を細める。
「なら、顔は?」
「……知っています。」
侍従は震える手で、ある方向を指差した。
「昨日の夜、その方は――」
「王宮に入ってきました。」
国王が眉を寄せる。
「誰だ。」
侍従は答えた。
「黒い外套を着た男です。」
「そして……。」
一瞬、言葉をためらう。
「リゼリア様と、同じ顔をしていました。」
リゼリアの表情が固まる。
「……私と?」
ノアがすぐにリゼリアの前へ立つ。
「どういうことだ?」
侍従は首を振る。
「顔だけではありません。」
「その男は、自分のことをこう名乗っていました。」
「――アレクシス・エヴァンローズ、と。」




