第九十八話 王宮からの呼び出し
王宮からの使者が帰ったあとも、部屋には緊張が残っていた。
「リゼリアを王宮へ、か。」
公爵が腕を組む。
ノアは黙ってリゼリアを見る。
「どうする?」
「行く。」
リゼリアは迷わず答えた。
「陛下が《黎明の指輪》について知っているなら、聞きたい。」
「危険かもしれない。」
「分かってる。」
リゼリアはノアの手を握る。
「でも、ここまで来たら知りたいの。」
ノアは少しだけ考えた。
「……分かった。」
「俺も行く。」
レオンも頷く。
「俺も同行する。」
公爵が二人を見る。
「頼む。」
◇ ◇ ◇
翌日。
三人は王宮へ向かった。
謁見の間へ通されると、国王が待っていた。
「よく来たな、リゼリア。」
「お呼びいただき、ありがとうございます。」
リゼリアが頭を下げる。
ノアも隣で礼をする。
国王は二人を見てから、静かに口を開いた。
「先ほど報告を受けた。」
「エヴァンローズ家の古い記録を見つけたそうだな。」
「はい。」
「そして、《黎明の指輪》という名も。」
リゼリアは頷く。
「陛下は、あの指輪についてご存じなのですか?」
「ああ。」
国王の表情が変わる。
「王家では代々、秘密裏に受け継がれてきた。」
「だが、百年以上前に失われた。」
ノアが尋ねる。
「盗まれたという事件ですね。」
「そうだ。」
国王は頷く。
「しかし、王家に伝わっている記録では――盗まれたことになっている。」
「実際には違うのですか?」
国王はしばらく沈黙した。
「……違う。」
リゼリアが息を呑む。
「では、どこに?」
「それを知っていたのが、エレノアだ。」
ノアの表情が変わる。
「だから、エレノアは狙われた。」
「そうだ。」
国王は立ち上がった。
「そして、今になって再び動き始めた。」
国王がリゼリアを見る。
「お前が生まれたからだ。」
「……私が?」
「正確には、お前がエレノアの血を継いでいるからだ。」
リゼリアは胸元のペンダントを握る。
「でも、指輪はどこにあるんですか?」
国王は答えなかった。
代わりに、一人の侍従へ目を向ける。
侍従が小さな箱を持ってくる。
国王が蓋を開けた。
中に入っていたのは、一枚の古い紙だった。
「これは、百年前にエレノアから王家へ渡されたものだ。」
リゼリアが受け取る。
紙には、短い文章が書かれていた。
『《黎明の指輪》は、エヴァンローズ家にはない。』
『アレクシスにも渡していない。』
『指輪は――』
そこで文章が途切れている。
「また、ここが破られている……。」
ノアが呟く。
国王は頷いた。
「何者かが、長い間この部分だけを隠している。」
リゼリアは紙を見つめる。
「では、指輪の場所は誰も知らない?」
「一人だけ。」
国王が答えた。
「エレノア本人だ。」
「……でも、もう亡くなっている。」
「ああ。」
国王は静かに続けた。
「だから、彼女が残した最後の記録を探す必要がある。」
ノアが尋ねる。
「最後の記録は、エヴァンローズ家にあります。」
「それだけではない。」
国王は首を振った。
「もう一つある。」
「王家にも、エレノアが残した記録がある。」
その瞬間。
謁見の間の扉が勢いよく開いた。
「陛下!」
騎士が駆け込んでくる。
「大変です!」
「何があった?」
「王家の宝物庫が――」
騎士は息を切らしながら告げた。
「何者かに荒らされています!」
国王の顔色が変わった。
「……まさか。」
ノアも立ち上がる。
「狙いは、もう一つの記録か。」
リゼリアは胸元のペンダントを握りしめた。
事件は、王宮にまで広がった。




