第九十七話 最後の記録
地下道を抜けると、森の中へ出た。
追手の気配はない。
「ここまで来れば大丈夫だ。」
レオンが周囲を確認する。
リゼリアは母の持っている手紙を見つめていた。
「お母様。」
「何?」
「最後の記録って……何なの?」
夫人は少し迷ってから答えた。
「公爵家の当主だけが受け継ぐ記録よ。」
ノアが尋ねる。
「お父様が持っている?」
「ええ。」
「ただし、今まで一度も開かれていないわ。」
リゼリアが驚く。
「どうして?」
「開くための条件があるから。」
「条件?」
夫人は頷いた。
「エレノアが決めたの。」
「二つの血筋が揃った時だけ、開けるように。」
ノアがリゼリアを見る。
「だから、今なのか。」
「ええ。」
レオンが尋ねる。
「もう一つの血筋は?」
アレクシスの血を継ぐ男が答えた。
「私だ。」
そして、胸元から銀色のペンダントを取り出す。
リゼリアのものと同じだった。
「二つを合わせれば、記録を開けられる。」
リゼリアは自分のペンダントを見る。
「これを?」
「ああ。」
◇ ◇ ◇
翌朝。
一行はエヴァンローズ公爵家へ戻った。
公爵は地下の保管室へ案内した。
部屋の中央には、古い木箱が一つ置かれている。
「これが最後の記録だ。」
公爵が言った。
箱には二つの鍵穴がある。
リゼリアとアレクシスの血筋を示すペンダントを、それぞれ差し込む。
カチッ。
カチッ。
同時に音が鳴った。
箱が開く。
中には、一冊の古い本が入っていた。
公爵が取り出す。
「……これが。」
表紙には、エレノアの名前。
ノアが隣から覗く。
「開けよう。」
公爵が最初のページをめくった。
そこには、エレノアの文字が残っていた。
『この記録を読む者へ。』
『私は、アレクシスを守った。』
『だが、それが目的ではなかった。』
リゼリアは息を呑む。
ページをめくる。
『私が守りたかったのは、アレクシスの子孫。』
『そして、その血を継ぐ者たちだった。』
ノアが静かに読む。
「……どうして?」
次のページに、答えがあった。
『王家の宝が盗まれた事件には、もう一つの真実がある。』
『盗まれた宝は、ただの宝ではなかった。』
リゼリアが顔を上げる。
「ただの宝じゃない?」
公爵が次のページをめくる。
そこには、宝の名前が書かれていた。
『王家の証――《黎明の指輪》』
部屋に沈黙が落ちる。
レオンが呟いた。
「王位を示す、王家の秘宝……。」
エレノアの記録は、さらに続いていた。
『この指輪には、王家の血筋を証明する秘密が隠されている。』
『だから、あの事件は起こされた。』
ノアの表情が変わる。
「つまり……。」
リゼリアは震える声で続けた。
「誰かが、王位を奪うために仕組んだ事件?」
公爵が頷く。
「その可能性が高い。」
しかし、最後のページだけは――。
破り取られていた。
ノアが眉を寄せる。
「また、ここだけない。」
その時。
部屋の外から、騎士の声が響いた。
「公爵様!」
「王宮から緊急の使者が来ています!」
公爵が振り返る。
「王宮?」
使者が扉を開ける。
「陛下からの命令です。」
「至急、リゼリア様を王宮へお連れするようにとのことです。」
リゼリアは驚いた。
「私を……?」
ノアが険しい顔をする。
嫌な予感がした。
そして。
使者は、もう一言だけ告げた。
「陛下が――《黎明の指輪》について、お話ししたいそうです。」




