第八十六話 狙われる理由
リゼリアは、紙に書かれた言葉を見つめていた。
「エレノアの血を継ぐ者……。」
自分を狙っている理由が、少しずつ見えてきた気がする。
ノアがリゼリアの手を握る。
「怖い?」
「……少し。」
「無理をするな。」
「でも、知りたい。」
リゼリアは顔を上げた。
「どうして私が狙われているのか。」
公爵も頷く。
「私も知りたい。」
「なら、エレノアについて調べよう。」
レオンが言った。
公爵は書庫の奥へ向かう。
「エレノアについて残っている記録があるかもしれない。」
しばらく探した後。
「あった。」
古い本を一冊取り出す。
ページをめくる。
そこには、エレノアについて簡単な記録が残されていた。
「エレノア・エヴァンローズ。」
「今から百年以上前の人間だ。」
リゼリアは肖像画を見る。
「この人は、何をしたの?」
「詳しいことは書かれていない。」
公爵が眉を寄せる。
「ただ、一つだけ気になる記述がある。」
「何?」
「エレノアは、ある人物と共に屋敷を出たことがあるらしい。」
「誰と?」
「それが書かれていない。」
ノアが本を覗き込む。
「名前が消されている。」
該当する部分だけ、紙が不自然に削られていた。
「誰かが故意に消したんだ。」
レオンが言う。
リゼリアは黙って考える。
「じゃあ、エレノアには何か秘密があったのね。」
「ああ。」
ノアが頷く。
「そして、その秘密を知りたい人間がいる。」
その時。
書庫の外から、物音がした。
「……誰?」
リゼリアが振り返る。
ノアがすぐに剣へ手をかける。
「誰かいるのか?」
返事はない。
ノアが扉を開ける。
廊下には誰もいなかった。
ただ。
床に一枚の紙が落ちている。
ノアが拾い上げる。
そこには――。
『エレノアは、真実を知っていた。』
そして、その下に続く一文。
『だから、消された。』
リゼリアの顔が強張る。
「……消された?」
公爵も黙り込む。
ノアは紙を握る。
「この事件。」
「どうやら、エレノアの過去から始まっているらしい。」
リゼリアは肖像画を見る。
百年以上前の女性。
自分と血の繋がった先祖。
その人が残した秘密が、今になって自分を巻き込んでいる。
「ノア。」
「ん?」
「私、逃げたくない。」
「……分かった。」
ノアは優しく頷いた。
「じゃあ、一緒に真実を探そう。」
リゼリアは笑った。
「うん。」
その夜。
誰もいない屋敷の外で、一人の男が空を見上げていた。
「もうすぐだ。」
手には、古い肖像画。
エレノアの顔を指でなぞる。
「今度こそ、終わらせる。」
そして男は、闇の中へ消えていった。




