第八十五話 肖像画の女性
翌日。
リゼリアたちは、再びエヴァンローズ公爵家の書庫に集まっていた。
テーブルの上には、昨日見つかった肖像画の一部が置かれている。
「この女性について、何か分からない?」
ノアが尋ねる。
公爵は肖像画をじっと見つめた。
「……やはり、見覚えがある。」
「誰ですか?」
「名前までは思い出せない。」
公爵は眉間に皺を寄せる。
「ただ、かなり昔の先祖だと思う。」
レオンが肖像画を覗き込む。
「それなら、家系図を調べれば分かるんじゃないか?」
「その家系図の一部が破られているんだ。」
ノアが答える。
「なるほど。」
リゼリアは肖像画を見つめた。
「この人……。」
「どうした?」
「やっぱり、どこかで見た気がする。」
すると、公爵が立ち上がった。
「待て。」
「何?」
「肖像画の裏を見せてくれ。」
ノアが裏返す。
そこには、薄く文字が残っていた。
「……何か書いてある。」
リゼリアが覗き込む。
古い文字で、短い言葉が記されている。
――『エレノア・エヴァンローズ』
「エレノア……。」
公爵が息を呑んだ。
「思い出した。」
「この女性は、私の曽祖母の姉だ。」
リゼリアが驚く。
「そんな昔の人が、どうして今になって?」
「分からない。」
公爵は首を振る。
ノアが肖像画を見つめる。
「でも、これで一つ分かった。」
「何?」
「犯人は、この女性について調べている。」
レオンも頷く。
「そして、その肖像画と一緒に古い記録まで盗んだ。」
「つまり……。」
リゼリアが呟く。
「エレノアという人が、何か重要なことを知っていた?」
「その可能性は高い。」
公爵は険しい顔をする。
その時。
書庫の外から、慌ただしい足音が聞こえた。
「公爵様!」
騎士が駆け込んでくる。
「どうした?」
「先ほど、王都から知らせがありました。」
「何があった?」
「昨夜捕らえた男が……。」
騎士は言葉を詰まらせる。
「何?」
「牢から逃げました。」
ノアの表情が変わった。
「どうやって?」
「詳しいことは分かっていません。」
「ただ……。」
騎士が続ける。
「男が残したものが一つあります。」
「これです。」
差し出されたのは、小さな紙切れ。
ノアが受け取る。
そこには一言だけ書かれていた。
『次は、エレノアの血を継ぐ者だ。』
リゼリアの顔が青ざめる。
「……私?」
ノアがすぐにリゼリアの前へ立つ。
「リゼリア。」
「大丈夫。」
ノアは手を握る。
「絶対に一人にしない。」
「うん。」
リゼリアは頷いた。
けれど。
今回は、ノアも気づいていた。
ただの脅迫ではない。
犯人は――。
**リゼリアの血筋を狙っている。**




