第八十話 エヴァンローズ公爵家
馬車は、エヴァンローズ公爵家へ向かっていた。
リゼリアは窓の外を眺めている。
「……久しぶりだわ。」
「緊張してる?」
隣に座るノアが尋ねた。
「少しだけ。」
「俺がいる。」
「うん。」
リゼリアは小さく笑った。
向かいにはレオンが座っている。
「二人とも、少しは休んでおけ。」
「まだ何も起きていないんだから。」
「そうですね。」
しばらくして。
馬車が止まった。
「到着いたしました。」
扉が開く。
リゼリアが降りると、懐かしい屋敷が目に入った。
エヴァンローズ公爵家。
かつて自分が暮らしていた場所。
「リゼリア。」
玄関から、父親であるエヴァンローズ公爵が出てくる。
「お父様……!」
リゼリアが駆け寄る。
「無事でよかった。」
公爵は娘の姿を確認すると、ほっとしたように息を吐いた。
「私も、お父様が無事で安心しました。」
「ノア殿も、来てくれてありがとう。」
「いえ。」
ノアが頭を下げる。
「妻のことですから。」
その言葉に、公爵は少し笑った。
「……以前より、頼もしくなったようだな。」
「そう見えますか?」
「娘を任せても大丈夫そうだ。」
リゼリアは少し照れながら二人を見る。
「中へ入りましょう。」
◇ ◇ ◇
応接室。
全員が席に着く。
公爵は昨夜見つかった紙をテーブルに置いた。
ノアが目を通す。
「『娘を返してほしければ、余計なことはするな』……。」
「そうだ。」
リゼリアの表情が曇る。
「でも、私は何もされていないわ。」
「だからこそ、不自然なんだ。」
公爵が答える。
「お前を狙う理由が分からない。」
レオンが口を開く。
「昨夜捕まえた男も、理由については何も話していません。」
「そうか……。」
公爵は考え込む。
すると。
ノアがふと顔を上げた。
「一つ、確認したいことがあります。」
「何だ?」
「最近、エヴァンローズ家で何か変わったことはありませんでしたか?」
公爵は黙った。
そして。
「……一つだけある。」
「何ですか?」
「二ヶ月ほど前だ。」
公爵はゆっくり口を開いた。
「屋敷の古い書庫から、何者かが一冊の記録を持ち出そうとしていた。」
リゼリアが眉を寄せる。
「記録?」
「ああ。」
「エヴァンローズ家が代々保管している古い記録だ。」
「何が書いてあるんですか?」
公爵はしばらく黙った。
「……それが、分からない。」
「分からない?」
「鍵が掛けられていてな。」
公爵は苦笑する。
「私も中身を知らない。」
ノアの表情が変わる。
「その記録は、今どこに?」
公爵は答えた。
「ここだ。」
「今も、屋敷の書庫にある。」
その瞬間。
ガシャーン!
廊下から大きな音が響いた。
「何だ!?」
全員が立ち上がる。
騎士が廊下へ走っていく。
数秒後。
「公爵様!」
騎士の叫び声が響いた。
「書庫の扉が――!」
「開いています!」




