第七十八話 父からの伝言
「……お父様が?」
リゼリアは使者を見つめた。
「はい。」
使者は緊張した面持ちで頷く。
「公爵様から、もう一つ伝言を預かっています。」
「何?」
「『ノア殿と一緒にいるように』と。」
ノアとリゼリアは顔を見合わせた。
「何かあったの?」
「詳しいことは、私には分かりません。」
使者は首を振る。
「ただ、公爵家にも怪しい人物が現れたそうです。」
「……お父様たちは無事なの?」
「はい。今のところは。」
リゼリアは胸を撫で下ろす。
「よかった……。」
ノアは静かに口を開いた。
「エヴァンローズ公爵家の警備を増やしてもらうよう、こちらからも騎士を送ろう。」
「ありがとうございます。」
使者は深く頭を下げた。
「それと。」
懐から一通の手紙を取り出す。
「公爵様から、リゼリア様へ。」
リゼリアが受け取る。
封を開く。
短い文章だった。
『詳しい話は、直接会って話したい。
今は何も心配しなくていい。
ノア殿を信頼して、一緒にいてほしい。』
「……お父様。」
リゼリアは手紙を胸に抱いた。
ノアが隣から覗き込む。
「少し安心した?」
「うん。」
「よかった。」
ノアは微笑んだ。
使者が退出すると、部屋には二人だけが残った。
「ノア。」
「ん?」
「今日は……一緒にいてくれる?」
「もちろん。」
ノアは迷いなく答えた。
リゼリアは隣に座る。
「前世だったら。」
「きっと、あなたは『危険だから部屋から出るな』って言ってたでしょうね。」
ノアが苦笑する。
「……否定できない。」
「ふふ。」
「でも、今は言わない。」
「どうして?」
「君が自分で決めることだから。」
リゼリアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今日は私が決める。」
「何を?」
「あなたの隣にいる。」
ノアは一瞬黙った。
そして。
「……それは、嬉しい。」
そっとリゼリアの手を握る。
「俺も、君の隣にいたい。」
二人はそのまま、静かに寄り添った。
しかし。
同じ頃。
エヴァンローズ公爵家では――。
「公爵様。」
使用人が慌てて駆け込んできた。
「どうした?」
「屋敷の裏門が……開いています。」
公爵の表情が変わる。
「誰か侵入したのか?」
「分かりません。」
使用人は青ざめて答えた。
「ですが、門の近くに――これが。」
差し出されたのは、一枚の紙。
そこには一言だけ書かれていた。
『娘を返してほしければ、余計なことはするな。』




