第七十四話 身近な人
ノアは、紙に書かれた予定をじっと見つめていた。
今日の庭園の時間まで、正確に記されている。
「これを書いた人間は、リゼリアの予定を事前に知っていた。」
レオンが言う。
「だろうな。」
ノアは紙を折りたたんだ。
「だが、今ここで使用人全員を疑えば、犯人が警戒する。」
「じゃあ、どうする?」
「何も知らないふりをする。」
レオンが頷く。
「なるほど。」
リゼリアは二人の会話を聞きながら、不安そうに手を握った。
「……私、誰かに恨まれるようなことをしたのかな。」
「リゼリアのせいじゃない。」
ノアはすぐに答えた。
「まだ理由すら分かっていない。」
「でも、私を狙ってる。」
「ああ。」
ノアはリゼリアを見る。
「だから俺が調べる。」
その時、レオンがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば。」
「昨日、夜会でリゼリアさんに近づいた令嬢たち。」
「彼女たちのことも調べておいた方がいいかもしれない。」
リゼリアは少し驚く。
「エミリア様?」
「ああ。」
「でも、エミリア様は私を助けてくれたわ。」
昨夜、襲撃者が現れた時。
最初にリゼリアを突き飛ばして助けたのはエミリアだった。
「だから、彼女が犯人とは思えない。」
「俺もそう思う。」
ノアが答える。
「ただ、誰かに利用された可能性はある。」
「それは調べてみよう。」
レオンが頷く。
すると。
庭の入口から、一人の侍女が近づいてきた。
「リゼリア様。」
「はい?」
「お部屋の整理が終わりましたので、お戻りいただいて大丈夫です。」
「ありがとう。」
侍女が一礼する。
そのまま去っていく。
リゼリアは何気なくその背中を見つめた。
「……あの侍女。」
ノアが振り返る。
「どうした?」
「昨日から、見かけることが多い気がする。」
「名前は分かる?」
「確か……ミアだったと思う。」
ノアは何も言わず、侍女の後ろ姿を見つめた。
レオンも同じ方向を見る。
しかし。
ミアが角を曲がった瞬間。
その手には、先ほど騎士が見つけたものと同じ布袋が握られていた。
そして彼女は、誰もいない廊下で立ち止まる。
「……予定通り。」
小さく呟く。
懐から一枚の紙を取り出す。
そこには、新しい予定が書かれていた。
『明日の朝、決行』
ミアは紙を握り締める。
その顔から、先ほどまでの穏やかな表情は消えていた。




