第七十三話 疑うべき相手
ノアは、庭に刺さった矢を見つめていた。
「屋敷の中にいる可能性があるなら、使用人も含めて調べた方がいい。」
レオンが言う。
「そうだな。」
ノアは頷いた。
「でも、誰かを理由もなく疑いたくはない。」
「分かっている。」
レオンも頷く。
「だからこそ、昨夜から今までの出入りを確認してみる。」
「頼む。」
レオンが騎士たちへ指示を出していく。
その間、リゼリアはノアの隣に立っていた。
「ノア。」
「ん?」
「さっき、私を見つけた時……。」
リゼリアは少し迷ってから続ける。
「すごく怖そうな顔をしていた。」
ノアは黙った。
「……怖かった。」
「また、失うんじゃないかって思った。」
リゼリアはそっとノアの手を握る。
「私はここにいるよ。」
「分かってる。」
「じゃあ、もう少し笑って。」
ノアは一瞬目を丸くした。
そして、ほんの少しだけ笑った。
「努力する。」
「ふふ。」
二人の様子を少し離れた場所から見ていたレオンが、ほっとしたように息を吐く。
だが、その時だった。
「レオン様!」
騎士の一人が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「庭の外で、これを見つけました。」
騎士が差し出したのは、小さな布袋だった。
中には銀貨が数枚入っている。
「これだけ?」
「いえ。」
騎士が首を振る。
「この布袋に、屋敷の使用人しか知らない印が付いていました。」
ノアの表情が変わる。
「つまり……。」
「犯人は屋敷の内部事情を知っている可能性が高い。」
レオンが答えた。
リゼリアは不安そうに周囲を見る。
毎日顔を合わせる使用人たち。
その中に、自分を狙っている人間がいるかもしれない。
「大丈夫。」
ノアがリゼリアの肩に手を置く。
「誰も信用するな、とは言わない。」
「ただ、しばらくは一人にならないようにしよう。」
「うん。」
リゼリアは頷いた。
すると。
「ノア様。」
別の騎士が駆け寄ってくる。
「屋敷の裏手を調べていたところ、不審なものを見つけました。」
「何だ?」
「こちらです。」
騎士が差し出したのは、一枚の紙だった。
そこには、リゼリアの名前と――。
今日の行動予定が書かれていた。
ノアの顔から、笑みが消えた。
「……誰かが、リゼリアの予定を知っていた。」
レオンも紙を見つめる。
「ということは。」
「ああ。」
ノアは静かに答えた。
「犯人は、俺たちのすぐ近くにいる。」




