第七十二話 再び狙われて
その日の午後。
リゼリアは庭園にいた。
屋敷の中に閉じこもっているのも落ち着かず、ノアに相談したところ、騎士を同行させることを条件に外へ出ることを許してくれた。
「ここにいるから、安心してください。」
少し離れた場所で騎士が頭を下げる。
「ありがとう。」
リゼリアは庭の花へ目を向けた。
昨夜のことがあったせいか、いつもより静かな庭園が妙に心地よかった。
すると。
「リゼリア様。」
後ろから声がする。
振り返ると、侍女が立っていた。
「ノア様がお呼びです。」
「今?」
「はい。」
「分かったわ。」
リゼリアは立ち上がった。
しかし、数歩進んだところで。
カラン――。
何かが地面に落ちる音がした。
「……?」
足元を見る。
小さな銀色の飾りだった。
拾い上げようとした、その瞬間。
「リゼリア!」
遠くからノアの声が響いた。
振り返る。
ノアがこちらへ走ってくる。
「動くな!」
「え?」
次の瞬間。
ヒュッ――。
一本の矢が、リゼリアのすぐ横を通り過ぎた。
ドスッ!
後ろの木へ深く突き刺さる。
「きゃっ……!」
リゼリアが息を呑む。
ノアが駆け寄り、リゼリアを抱き寄せた。
「怪我は?」
「ない……。」
「本当に?」
「うん。」
ノアはリゼリアの身体を確かめる。
無傷だと分かって、ようやく息を吐いた。
「……よかった。」
その声が震えていた。
騎士たちが一斉に周囲を探し始める。
「裏門を調べろ!」
「庭の外へ逃がすな!」
しかし、犯人の姿は見つからない。
ノアは木に刺さった矢を見る。
「まただ。」
昨夜に続いて、今日も狙われた。
しかも今度は、屋敷の中で。
「ノア。」
リゼリアが袖を掴む。
「私は大丈夫よ。」
「……分かってる。」
ノアはそう答えた。
けれど、その顔には隠しきれない恐怖が浮かんでいる。
「ただ。」
ノアはリゼリアを見つめる。
「君を失うのだけは、もう二度と嫌なんだ。」
その言葉に、リゼリアの胸が締め付けられた。
前世でも。
ノアは同じことを思っていたのだろう。
だからこそ、間違えた。
守ることと、閉じ込めることを同じだと思ってしまった。
リゼリアはそっとノアの手を握る。
「ノア。」
「ん?」
「私、ちゃんとここにいるよ。」
「ああ。」
「だから、今度は一緒に考えよう。」
ノアは黙ってリゼリアの手を握り返した。
「……分かった。」
その時。
庭の入口からレオンが駆けてきた。
「ノア!」
「また襲われたのか?」
「ああ。」
ノアが頷く。
レオンは木に刺さった矢を見る。
「昨日の件と同じだな。」
「たぶん。」
レオンは周囲を見渡した。
「それなら、犯人はかなり近くまで入り込んでいる。」
ノアの表情が険しくなる。
「……屋敷の中にいる可能性もあるな。」
三人の間に、重い沈黙が落ちた。




