第七十一話 届いた手紙
翌朝。
屋敷は昨夜の襲撃の話で慌ただしかった。
ノアとレオンは応接室で、騎士から報告を受けていた。
「犯人はまだ見つかっていません。」
「ただ、昨夜の襲撃は偶然ではないようです。」
騎士が続ける。
「犯人はリゼリア様の行動を把握していた可能性があります。」
ノアの表情が険しくなる。
「つまり、最初からリゼリアを狙っていたということか。」
「はい。」
レオンも難しい顔をする。
「それなら、警備を増やした方がいいな。」
「ああ。」
ノアは短く答えた。
「リゼリアを一人にしないようにする。」
「分かった。」
レオンが頷く。
その時。
「ノア。」
扉の向こうからリゼリアの声がした。
「入っていい?」
「ああ。」
扉が開き、リゼリアが入ってくる。
「昨夜のことで、騎士の方がいらっしゃっていたのね。」
「大丈夫だ。」
ノアがすぐに答える。
「警備を増やすだけだ。」
「そう。」
リゼリアは頷いた。
そこへ使用人が一通の手紙を持って入ってくる。
「ノア様。」
「先ほど、リゼリア様宛てに届いたものです。」
「私に?」
リゼリアが受け取る。
差出人の名前はない。
「開けてみるか?」
ノアが尋ねる。
「うん。」
リゼリアは封を切った。
一枚の紙が入っている。
そこには短い文章だけが書かれていた。
『次は、逃がさない。』
リゼリアの顔から血の気が引く。
「……ノア。」
ノアがすぐに紙を受け取る。
目を通した瞬間、表情が変わった。
「レオン。」
「ああ。」
レオンも紙を見る。
「これは……。」
「昨日の襲撃と関係があるな。」
ノアは紙を握り締める。
「リゼリア。」
「しばらく屋敷から出る時は、必ず俺と一緒にいてくれ。」
リゼリアは頷く。
「分かった。」
レオンが二人を見る。
「俺は父上に知らせてくる。」
「ああ。頼む。」
レオンが部屋を出ていく。
扉が閉まる。
二人きりになった。
リゼリアは黙ったまま、ノアの横顔を見つめる。
「……怖い?」
ノアが尋ねた。
「少し。」
「俺もだ。」
ノアは正直に答えた。
「でも、今は違う。」
「何が?」
「怖いからって、君を閉じ込めたりしない。」
リゼリアの胸が小さく締め付けられる。
「前世の俺なら。」
ノアは静かに続けた。
「きっと今すぐ部屋に鍵を掛けていた。」
「誰にも会わせず、外にも出さず。」
「それで君を守ったつもりになっていた。」
リゼリアは何も言わず、ノアの手に自分の手を重ねた。
「でも、今は?」
「君に選んでほしい。」
ノアはリゼリアを見る。
「俺の隣にいるかどうかも。」
「どう生きるかも。」
「全部。」
リゼリアは小さく微笑んだ。
「じゃあ、今はここにいる。」
「あなたの隣に。」
ノアの目が、ほんの少し潤む。
「……ありがとう。」
その手を、ノアはそっと握り返した。
けれど。
二人ともまだ知らなかった。
昨夜の襲撃は――。
始まりにすぎなかった。




