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何度転生しても逃げられない  作者: S@Y@


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第六十九話 それでも、そばに


 長い沈黙が続いていた。


 ノアは、何も言わずに待っている。


 リゼリアがどんな答えを出しても。


 今は、ただ受け止めるつもりなのだろう。


「……ノア。」


「うん。」


「前世の私は。」


 リゼリアはゆっくりと言葉を探す。


「あなたのことが、怖かった。」


 ノアの表情が僅かに曇る。


「……分かっている。」


「自由に外へ出られなくて。」


「誰とも会えなくて。」


「何をするにも、あなたの許可が必要で。」


 ひとつひとつ思い出すたび、胸が苦しくなる。


「私は何度も、あなたにやめてって言った。」


「ああ。」


「それでも、あなたはやめなかった。」


「……ああ。」


 ノアは目を逸らさない。


 言い訳もしない。


「だから、今でも時々怖くなる。」


 リゼリアは自分の手をぎゅっと握った。


「あなたが優しくしてくれることも。」


「大切にしてくれることも。」


「嬉しいのに……。」


 そこで言葉が止まる。


 ノアが静かに待っている。


「また、あの頃みたいになるんじゃないかって。」


 ノアはしばらく黙っていた。


 やがて。


「ならない。」


 静かな声だった。


「絶対に。」


 リゼリアが顔を上げる。


「どうして?」


「俺自身が、一番分かっているからだ。」


 ノアは自分の手を見つめる。


「前世の俺は、君を失うのが怖くて。」


「君の自由まで奪った。」


「今世では、君に選んでもらいたい。」


「俺の隣にいることも。」


「俺から離れることも。」


「全部、君が決めればいい。」


 リゼリアの胸が、少しだけ温かくなる。


「……離れてもいいの?」


 ノアの瞳が揺れた。


 それでも、頷く。


「ああ。」


「君が望むなら。」


「俺は止めない。」


 その言葉は、ノアにとって決して簡単なものではないのだろう。


 リゼリアには、それが分かった。


 だから。


 そっと手を伸ばす。


 ノアの手の甲に、自分の指を重ねる。


 ノアが驚いたように顔を上げた。


「でも。」


 リゼリアは小さく笑う。


「今は、離れたいとは思わない。」


「……リゼ。」


「あなたの隣にいるのは、私が選んでる。」


 ノアの瞳が大きく揺れる。


「だから。」


「もう少しだけ、ここにいてもいい?」


「……もちろん。」


 ノアは震える声で答えた。


 それ以上、何も言わなかった。


 ただ。


 重ねられた手を、壊れ物のようにそっと包み込む。


 その夜。


 二人の間にあった過去が、初めて少しだけほどけた気がした。


 けれど。


 屋敷の外では。


 夜の闇に紛れて、一人の男が立っていた。


「……失敗したか。」


 男の手には、一枚の紙。


 そこには、リゼリアの名前が記されている。


 そして、その下には――。


 『次の機会を待て』


 とだけ書かれていた。

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