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何度転生しても逃げられない  作者: S@Y@


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第五十八話 夜会への招待


 新婚旅行から戻って三日。


 リゼリアは少しずつ、公爵家での生活に慣れ始めていた。


 朝はノアと食事を共にする。


 昼には公爵夫人とお茶を楽しむ。


 以前なら緊張で固まっていた時間も、今では穏やかに過ごせるようになっていた。


「リゼちゃん」


 午後のお茶の時間。


 公爵夫人が一通の封筒をテーブルへ置いた。


「王宮から招待状が届いたの」


「王宮……?」


 リゼリアは封筒を開く。


 中には、夜会への招待状が入っていた。


「来週、新婚のお披露目も兼ねた夜会が開かれるそうよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 リゼリアの指が止まった。


「……夜会」


 胸の奥が、わずかに苦しくなる。


 夜会が嫌いだったわけではない。


 華やかな音楽。


 美しいドレス。


 たくさんの人々の笑顔。


 それ自体は、嫌いではなかった。


 けれど。


 前世の夜会には、いつもノアがいた。


 誰よりも近く。


 誰よりも強く。


 自分を囲うように。


 他の誰かと話せば、不機嫌になる。


 少しでも離れれば、すぐに探しに来る。


 周囲から見れば、仲睦まじい夫婦。


 けれどリゼリアにとっては、逃げ場のない時間だった。


「……」


 気付けば、手に力が入っていた。


「リゼちゃん?」


 公爵夫人の声で我に返る。


「あ……すみません」


 慌てて笑う。


「少し驚いただけです」


 その時。


「母上」


 扉が開き、ノアが入ってきた。


「招待状の話か」


「ええ」


 公爵夫人は頷く。


「二人で参加することになるでしょうね」


 そう言って微笑む。


 ノアはリゼリアを見る。


 すぐに。


 何かを察したようだった。


「……少し歩かないか?」


 ◇ ◇ ◇


 庭園。


 花の香りが漂う中、二人は並んで歩いていた。


「夜会が怖いか?」


 ノアが静かに尋ねる。


 リゼリアは少し迷った。


 でも。


 今は逃げないと決めた。


「……少し」


「前世のことを思い出すから」


 ノアの表情が曇る。


「そうか」


「夜会そのものが嫌だったわけじゃないの」


 リゼリアはゆっくり話す。


「でも、前世では……」


「あなたはいつも私の隣にいた」


 ノアは黙って聞いている。


「守ってくれていたのかもしれない」


「でも私は……」


 リゼリアは胸元で手を握る。


「閉じ込められているように感じていた」


 その言葉に。


 ノアは目を伏せた。


「……そうだな」


「俺がそうしていた」


 否定しなかった。


 言い訳もしなかった。


「すまない」


 短い謝罪。


 リゼリアはノアを見る。


「今は違うって、分かってる」


「だから余計に困るの」


「え?」


「あなたが変わろうとしているから」


 リゼリアは苦笑する。


「ずっと憎むつもりだったのに」


 ノアは少しだけ寂しそうに笑った。


「そうしてくれてもよかった」


「でも」


 リゼリアは首を横に振る。


「今のあなたは……前とは違う」


 しばらく沈黙が流れる。


 やがてノアが口を開いた。


「無理に行かなくてもいい」


「……」


「夜会より、君の方が大事だ」


 リゼリアは小さく息を吐く。


「それでも」


「行きたい」


 ノアが驚いたように見る。


「怖いけど」


「逃げたままにはなりたくない」


 ノアはしばらく黙った後、優しく手を差し出した。


「なら、一緒に行こう」


「辛くなったら?」


「帰る」


 即答だった。


「途中でも?」


「ああ」


「周囲が何と言っても?」


「ああ」


 ノアは真っ直ぐリゼリアを見る。


「君が笑えなくなった時点で、帰る」


 その言葉に、リゼリアは小さく笑った。


「本当に変わらないわね」


「何が?」


「そういうところ」


 ノアは少し困ったように笑う。


「悪い意味か?」


「……今は、違うかも」


 リゼリアはそっと手を重ねた。


「一緒に行こう」


 ノアはその手を優しく握り返す。


「ああ」


 今度の夜会は。


 過去に戻るためではない。


 過去を乗り越えるために。


 二人で向き合うための時間だった。

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